被爆地の役割 NGO圧力で合意を
「非常にネガティブ(否定的)な発言が相次いでいるのは確か。でも考えてみれば、前回の再検討会議だって、決して最初から楽観的なムードがあったわけではないですよね」
国連軍縮局アジア太平洋平和軍縮センター所長の石栗勉。一九八七年に国連事務局に入り、二〇〇〇年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議はもちろん、数多くの国際会議を舞台裏を含めて見届けてきた。
「米国をはじめとする核保有国は、NPTから特別の地位を与えられている。極端な話、この条約は間違いだ―と放り出してしまうことは、米国にとって得策ではないのは明らか。NPTの崩壊は、核の”闇市場”やイラン、北朝鮮の核疑惑を非難する根拠を失うことを意味するのだから」
少なくとも、NPT脱退要件の厳格化や、核関連物質の管理・監視態勢の強化など核拡散防止の分野では、一定の合意が成立する可能性は十分ある、と石栗は見る。
「現実的には、前回の十三項目のうち、いくつを合意として残せるか―の攻防になるだろう。一つなのか、二つなのか。いずれにせよ、次につながる前向きの合意が国際社会には必要、という思いは、どこかで必ず働くはずだ」。石栗は、そしてこう続ける。「結局、国際会議の前は、楽観的に考えるしかないんです。きっと何とかなるだろうって」
局面を打開するパワーがあるとしたら―。「前回と同様、NGO(非政府組織)の盛り上がりが核兵器国にどう圧力をかけていけるか、がポイントになる。被爆地や被爆者の役割は大きい」。石栗の答えは明快だ。
「厳しいけど、やりがいがありますよねえ、皆さん」
「地球市民長崎集会実行委員会」など三団体が二十一日、合同で開いたNPT派遣団壮行会。折り鶴をつなげたレイを首に下げた派遣団のメンバーに、長崎で留守を守る長崎被災協事務局長の山田拓民(73)が呼び掛けた。いつもの物静かな話しぶりとは明らかにトーンの違う、ことさらに弾んだ声だった。
「お土産がなかったら承知しませんからね」―。おどけた調子で続いた言葉に、メンバーたちは一瞬どよめき、すぐに表情を引き締めた。
山田の言う「土産」は無論、被爆地長崎が求めてやまない、核兵器廃絶への道筋であり、その道を切り開くための世界との確かな共感だ。被爆地の思いは、国際社会を揺り動かすことができるか。再検討会議は一週間後に、その幕を開ける。(文中敬称略)