対立鮮明 厳しい米の方針転換
「前回は、新アジェンダ連合の粘りやNGO(非政府組織)の圧力に加え、国際社会の多くに二十世紀のうちに核の時代にピリオドを打ちたい―という強い思いがあった」
「核兵器廃絶の明確な約束」を含む十三項目の最終合意を土壇場でまとめ上げた二〇〇〇年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議。「世界平和アピール七人委員会」のメンバーで元長崎大学長の土山秀夫(80)は、その劇的な前進をもたらした大きな要素の一つに「時の利」を挙げ、「やはり、今回は状況が違うと考えざるを得ない」と語る。
図式を単純化すれば、再検討会議は、NPTで特権的な地位を認められた五つの核保有国に対し、加盟国の大多数を占める非核保有国が、特権とセットになって条約に規定されている「核軍縮義務」の履行を保有国に詰め寄る構図で進む―と見ることができる。今回もまた、対立の構図は鮮明だ。
「米国をはじめとする保有国側は、核の”闇市場”の問題などを持ち出しながら核拡散の防止に全力を注ぐ必要性を力説し、核軍縮には触れないようにしながら、NPT脱退要件の厳格化や離脱国へのペナルティーなどを議題の中心に据えようとするはずだ」
これに対し、新アジェンダ連合や非同盟諸国を中心とする非核保有国は―。「もちろん、核拡散防止の重要性について異論はないだろう。ただし、非保有国側は当然、もう一つ主張がある。不拡散体制の強化は、あくまで核軍縮とパッケージだ、と」
非保有国側は今回の再検討会議で、二〇〇〇年の合意を具体化する「ロードマップ」を示せ―と強硬に迫る可能性が高い。「しかし、米国が拒否するのは目に見えている。それどころか、例えば、抽象的な形で『二〇〇〇年の合意が今なお効力を持っていることを確認する』といった程度のことさえ、口が裂けても言わないのではないか」
米政権の中枢を支えるネオコン(新保守主義)一派にとって、小型核・新型核の研究・開発を軸とする核政策の再構築はいわば「宿願」で、米中枢同時テロは、口実や大義を与えたにすぎない―。土山の持論だ。
「多少の圧力で彼らが方針を転換するとは思えない。今度ばかりは、どんでん返しは考えにくい。こと核軍縮に限って言えば、後戻りをどこまで押しとどめられるか―が焦点と考えた方がいいのかもしれない」。観測はあくまで厳しい。(文中敬称略)