伊藤一長さん 「力の解決」通用しない
「二〇〇〇年の約束は…、忘れ去られておるのではありませんか」
昨年の核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会。伊藤一長・長崎市長(59)は、国際NGO「平和市長会議」の副会長として演説した。緊張か、核軍縮の進まぬ世界に対する憤りからか、スピーチの途中で一瞬、言葉がもつれた。
再検討会議本番の議題を決めることさえできなかった準備委から一年。会議本番の行方には依然、暗雲が漂う。それでも「米国の高官がしきりにマイナスのアドバルーンを揚げているのは、米国が国際的に追い詰められている証拠だ」との見方を示す。
再検討会議に先立ちメキシコで開かれる「非核兵器地帯条約締約国会議」にも出席する。会議の構想は昨年八月、長崎を訪れた同国の国連ジュネーブ事務局常駐代表から聞き、その場で参加を打診された。三月下旬になってようやく正式な招請状が届くと、すぐに出張の日程を前倒しした。
「会議に集まる国々の中には、南アフリカのように核保有の一歩手前まで行って、踏みとどまった国もある。非核兵器国ががっちり結束を固めてニューヨークに乗り込むことは、きっと大きなインパクトになる」。会議への期待は大きい。
市長に就任したのは、被爆五十年の一九九五年五月。長崎市長としての十年間は、核や平和をめぐる世界の情勢が揺れ続けた十年でもあった。
「結果を見れば、世界は私たちの願う方向に向かってはいない。もっと頑張って被爆地長崎、広島の声を届けなければならない」。自らに言い聞かせるように話す。
今年の再検討会議では、各国の非政府組織に発言の場を用意する「NGOセッション」の日程が当初の予定より後半にずれ込んだため、会議場での演説が実現するかどうか微妙だ。それでも、NGO主催の反核集会参加や国連本部でのロビー活動など被爆地の“顔”の出番は少なくない。
「力で押さえつければ、物事が解決に向かう―そんな米国流の手法は通用しない。そのことを強く認識させなければならない。核保有国と世界の良識が問われる会議になる。二十一世紀の平和に貢献できる再検討会議であってほしい。そのために全力を投じたい」。メキシコへの出発が六日後に迫る