長崎県九条の会 前原清隆さん 平和憲法は正念場
平和憲法を守ろう―。井上ひさし氏、大江健三郎氏、澤地久枝氏ら中央の文化人七人が呼び掛けた「九条の会」に呼応し、昨年十月に「県九条の会」を発足させた。呼び掛け人には、郷土史家や宗教家、医師、被爆者などさまざまな分野の二十五人が政治的な立場を超えて名前を連ねた。
「大江氏はノーベル賞受賞演説で、日本国憲法から『不戦の誓い』をなくすことは、アジアとヒロシマ、ナガサキの犠牲者を裏切ることになる―と訴えた。被爆地の私たちには、憲法九条をいじって、自衛隊を正式な軍隊と認めることに反対し、集団的自衛権を認めることに反対していく責任がある」
戦後六十年、被爆六十年の今年は「憲法も正念場の年」と話す。国会の憲法調査会は五月の憲法記念日に合わせ、改憲の必要性を盛り込んだ「最終報告」を提出することが確実視されている。
「自衛隊のイラク派遣などを見れば、憲法九条は、既に首の皮一枚でつながっているだけかもしれない。だが、たとえ薄皮一枚でも、つながっているか、そうでないかでは全然違う。実態に合わせて憲法を変えようというのは、論法が逆さま」
前原清隆さん
鹿児島高専在学中の自治会活動をきっかけに”理系”から転身、法学者の道を歩み始めた。「普通の市民の平凡な生活を守っているのが憲法」と力説する。
「最近、空港や駅で『テロ特別警戒中』の看板を見掛ける。なぜ、テロの標的になることを心配しなければならない国になったのか、と一人ひとりに考えてほしい。平和憲法を守るかどうかは、そういう日本を選びますか、そんな日本で生きたいか、という問い掛け」
長崎に移り住んで間もない一九九〇年一月、昭和天皇の戦争責任発言をめぐって、右翼団体幹部による長崎市長銃撃事件が起きた。事件を受け、県内の大学人が「言論の自由への挑戦」に対する危機感で結束、学校の枠や研究分野を超えて抗議の署名運動や討論集会の開催に取り組んだことを印象深く記憶している。
「憲法改正の動きは、誰かに向けられた銃弾でも、具体的な暴力でもない。けれど、大学からも反対の声を上げていかなければならないと思う。まず自分の周りからその空気をつくりたい」(聞き手は報道部・田崎智博)
▽まえはら・きよたか 1952年、鹿児島県生まれ。中央大卒。名古屋大大学院法学研究科修了。88年から長崎総合科学大に勤務。専攻は憲法。「長崎県九条の会」に呼び掛け人の一人として参加し、事務局を担当。長崎市在住。52歳。