ナガサキピースミュージアム 増川雅一さん 平和とは“笑顔”
「どこに行っても笑顔で満ちあふれている世界。これが平和そのものだと思うし、そのための活動に燃えてますよ」
戦争反対と言わずに、平和を語ることができないか―。一昨年春、長崎市松が枝町の一角に開館したナガサキピースミュージアム。年間を通して開いている企画展示の領域は、人権、環境、文化と幅広い。
「日本は戦後六十年間、戦争がなかったという点では平和だった。しかし、『幸せですか?』と聞かれて、誰もが『はい』と答えることができるだろうか。例えば、県内で相次いだ少年事件。子どもを亡くした両親の悲しみと、戦争や原爆で肉親を失った家族の悲しみにどれほどの差があるだろうか。われわれは単に戦争がないから平和とは考えていない。身近な生活の中にも平和を脅かす多くの問題を抱えており、私たちのテーマは無限だと思う」
四歳の時、疎開先だった現在の同市赤迫付近で被爆。市職員だった父と酒の小売商をしていた祖父は爆心地近くで一瞬にして消えた。その後は母と祖母との苦しい生活。だが、原爆を落とした米国を憎んだことはない。
増川雅一さん
「原爆を投下したのは人間であり、米国が落としたという認識はない。ベトナム戦争同様、米国にはイラク戦争などを引き起こす人たちもいれば、それに反対する勢力もきちんと育っている。この民主主義の懐の深さは学んでいいと思う。東西冷戦時代、核兵器使用の危機を乗り越えたのは、日本の『核NO』に賛同した米国や世界の人々が大きな声を上げたからだ。平和運動が果たしてきた役割を決して過小評価してはいけない」
今年のメーン企画の一つは、原爆犠牲者を追悼する「平和地蔵展」。一九四五年八月九日に生まれた米国人女性が全世界に呼び掛けた手作り地蔵を展示する。既に制作者は日米両国をはじめ、世界八カ国に達し、平和への願いは国境を超えて大きく広がっている。
「暴力ではなく、信頼関係に基づく話し合いで解決していく時代。戦争や原爆の恐怖で縛ったり、人間に対する不信感をあおるのではなく、子どもたちが笑顔で鑑賞できる展示内容を計画したい。人間は豊かな才能を持ち、素晴らしいことがたくさんできるんだと」(聞き手は報道部・向井真樹)
▽ますかわ まさかず 1941年、長崎市生まれ。NBC長崎放送の制作、報道部に勤務。退職後の2003年4月、さだまさしさんの提唱で建設された「ナガサキピースミュージアム」の事務局長に就任。同市在住。63歳。