原爆症認定集団訴訟 老いと病に募る不安
十月二日、長崎市中心部の鉄橋。本県の原爆症認定集団訴訟の原告団長、森内實さん(67)=西彼長与町高田郷=は、街頭署名活動の中心にいた。「訴訟への支援をお願いします」。絞り出すような声が響く。
原爆の影響とみられる病の半生を過ごしながら、これまで被爆者運動とは無縁だった森内さん。原告となり、訴訟を呼び掛ける長崎原爆被災者協議会(被災協)に原告団長就任を請われた。何度も固辞したが、今年五月に引き受けた。「私と同じように病気に苦しむ仲間を見聞きし、一緒に頑張ろうと思った」
森内さんのそうした決意と裏腹に、署名活動の目の前を市民が急ぎ足で通り過ぎる。「大半は知らん顔。原爆問題にかかわりたくないとしか思えない」。森内さんには今、寂しさと焦燥感が押し寄せる。
原爆症は、原爆放射線が原因による病気やけがで治療が必要な場合、厚生労働大臣が認定し、月額約十三万円の医療特別手当が支給される。申請に対する認定率は、制度が始まった一九五〇年当時の九割台から年を追って低下、ここ数年は二割前後で推移している。
被災協が加盟する日本原水爆被害者団体協議会(被団協)は昨年四月、認定申請の却下処分取り消しを求める集団訴訟に踏み切った。被爆者救済を重視した制度開始当時の趣旨が忘れ去られた現在の制度運用。その見直しを厳しく迫るのが狙いだ。
森内さんは、口頭弁論や支援集会など欠かさず参加する。だが、原告全員と会ったことはない。がんや内臓疾患などを抱えた高齢の原告の多くが、そんな場に参加できる状況にはないからだ。
今月までに全国十七都道府県の百六十一人(本県二十八人)が提訴したが、このうち本県の三人を含む九人が他界した。被爆者の老いと病が裁判の行方に影を落とす。
原告側弁護団は今後、医師の意見書提出や専門家の証人申請を行い、来夏には原告への集中尋問を予定している。しかし、被告の国は認定審査の妥当性を主張し続け、当初掲げた「提訴後二年で判決」は事実上困難な状況にある。
「被爆状況も病気も異なる原告が全員勝訴というわけにはいかないだろう。果たして判決まで全員健康を維持できるのか」。森内さんの不安は募る。