反 発 検診と程遠い健康相談
十月四日。韓国・大田市の大韓赤十字社大田忠南支社大ホール。壁際に並んだ机を挟み、日本人の医師が通訳を通じ、韓国人の被爆者に治療状況を聞いていた。
日本の医師は法的に国外での医療行為が禁じられ、病名の診断や薬の処方はできない。時折、聴診器を胸にあてたり、血圧を測るくらいだ。
「(韓国の)病院でもらった薬を続けてください」。健康相談という業務の限界を感じつつ、医師はこう言葉を継いだ。
日本の医師による健康相談は、北米で一九七七年から、南米で八五年からそれぞれ始まった。原爆後障害を知らないまま故郷を離れた北南米の被爆者にとって、日本語が通じる医師は「数少ない母国との接点」。民間保険が中心のため、被爆者は加入を拒まれたり、高額な掛け金を前に通院を控える人が多い。それだけに、日本の医師団による健康相談は重要性を増す。
一方、韓国は国民皆保険制度で、被爆者は毎月十万ウオン(約一万円)の医療補助が支給されており、団長の森秀樹長崎原爆病院副院長は「思ったより病院にかかっている被爆者が多かった」と話す。こうした背景から、韓国内では逆に健康相談の有効性を疑問視する声がある。
「(健康相談は)日本政府の責任を薄めるための方便にすぎない。韓国の病院の検診結果を基に、被爆者健康手帳の発給と手当支給を急ぐべきだ」。七月に健康相談が実施された韓国南部の陜川では、医師団が到着する直前、韓国原爆被害者協会陜川支部の幹部が声明を発表、健康相談を批判した。
相談を見学した同支部の柳永秀さんは「検診や治療とは程遠い内容。予算の無駄遣いではないのか。期待が大きかっただけに失望も大きい」と、日本の支援団体に手紙を寄せた。
健康相談に対するこうした疑念や反発の一方で、「渡日治療」への橋渡しとなる期待も膨らんでいる。
「腰から右足に、原因不明のしびれがある」。広島で被爆した元徴用工、李根睦(イ・グンモク)さん(78)=平澤市=は、健康相談の席で長崎での検査・治療を申し込んだ。韓国では磁気共鳴診断装置(MRI)など最新機器による検査は高額だが、渡日すれば負担なしで受けられるからだ。
今回の二カ所で十人が渡日治療を希望した。「韓国での治療を補完する意味で渡日治療は有効だ」。森団長は手応えを語る。