平和宣言 「鋭さ欠く」の指摘も
長崎原爆の日に、平和祈念式典で市長が読み上げる「長崎平和宣言」は、被爆者や核問題・国際政治の研究者、市民運動関係者ら各界の二十人からなる「起草委員会」が文案を練り上げる。
もう一つの被爆地・広島には同種の委員会はない。宣言は「市長が独りで起案する」とされている。
「(委員の意見の)最大公約数をすくい上げるのも一つの方法だが、先駆性を持って指摘する姿勢も必要ではないか」
平和宣言起草委員の一人で、長崎総合科学大助教授の芝野由和(54)は、五月末の起草委の初会合でこう指摘した。
昨年、広島平和宣言は、米軍がイラクで使用した「劣化ウラン弾」について「何十億年も拭(ぬぐ)えぬ放射能汚染をもたらした」と批判した。一方、長崎では委員の論議の末、「因果関係に定説がない」ことを理由に言及が見送られた。
今年の起草委で芝野は、劣化ウラン弾の使用を強く批判するようあらためて提案した。さらに、自衛隊のイラク派遣についても「国際的信義に反する占領への加担」と明確に指摘することを求めた。だが、これらのくだりは、委員たちの論議の中で消えていった。
今年の起草委で芝野は、劣化ウラン弾の使用を強く批判するようあらためて提案した。さらに、自衛隊のイラク派遣についても「国際的信義に反する占領への加担」と明確に指摘することを求めた。だが、これらのくだりは、委員たちの論議の中で消えていった。
芝野は言う。「平和宣言には二つの役割がある。一つは、五十九年前の原爆投下で起きたことを語り継ぎ、聞き手に『あの日』を想起させること。もう一つは、前年からの一年間が平和と戦争にとってどんな一年だったかを、被爆地の視線で整理すること」。そして、こう言葉を続けた。「最近の宣言は鋭さを欠いている」
二〇〇〇年から起草委員を務める「ながさき女性国際平和会議」代表の西岡由香(39)は昨年秋、NGOが主催する「ピースボート」に参加、中東に向かう船内で「広島と長崎の平和宣言を読み比べる会」を開いた。
「当たり障りのない表現が目立つ」「被害者意識が前面に出過ぎではないか」「誰に向けられた言葉なのか、はっきりしない」―。ボートの同乗者たちが口々に長崎の宣言への感想を語った。
「今年は、このことを絶対に強く訴えるという柱をしっかり据えるべき、と感じた。若い世代にアピールするように、というなら、高校生や大学生の起草委員がいてもいい」(西岡)
提言は続く。「人の心を打つ、心に残る表現をもっと盛り込みたい。例えば、芥川賞作家の青来有一さんや吉田修一さんに、委員に入ってもらったっていいのではないか」(文中敬称略)