落差 「総論合格、各論は腰砕け」
「被爆地が担うべき国際的な役割を果たそう、という思いは形になっているし、評価もしている」。全国被爆二世団体連絡協議会長で「ながさき平和大集会」の事務局長などを務める平野伸人(57)は、こう前置きして長崎市長、伊藤一長への率直な疑問を口にする。「だが、地元での落差はどう理解したらいいのか」―。
今年六月の長崎市議会一般質問。外国艦船の入港に際し、非核証明書の提示を求める「非核神戸方式」についてこんなやりとりがあった。
議員「長崎港での導入について、市長の見解を聞きたい」
伊藤「長崎港の管理者は県。県議会において議論されるべき問題」
議員「県が管理者であることは、私もよく知っている。被爆六十周年を契機に『非核長崎港』を実現すべきだ。知事と率直に協議してほしい」
伊藤「県の方でいろんな議論をする中で、そうしたこと(神戸方式)が出てくると思う。残念ながら、現在そのような兆候はない」―。
非核神戸方式は、「非核三原則」の「持ち込ませず」に自治体が主体的に関与するシステム。長崎市は「長崎平和宣言」で、非核三原則の法制化や北東アジア非核兵器地帯の創設を毎年のように求めている。「それなのに」―。伊藤の冷めた答弁は議員を失望させた。
「総論は合格点なのに、各論になるとまるで腰砕け。そんなケースがあまりに多い」―。平野が解説する。「世界の中の『ナガサキ』の顔としての発言と、日本や長崎県の中の『長崎市』の首長としての発言の隔たりが大きすぎる」
平野は、被爆者援護法に基づく健康管理手当の代理申請をめぐって長崎市を相手に裁判を起こした韓国人被爆者、崔李〓の支援を続けてきた。二月に始まった裁判は、原告側の意向を踏まえるかのようなスピード審理で七月に結審した。
だが、崔は、九月に言い渡される予定の判決を聞くことなく、釜山の入院先で七月二十五日に世を去った。裁判は崔の妻が引き継ぐ。
平野は原告の勝訴を確信し、そして考える。「想定通りの判決が出たら、長崎市はどう対応するだろうか」
「被爆者救済の視点に根差した『控訴断念』も、被爆地として選択肢の一つになり得るはずだし、そうであってほしい」と平野らは期待を寄せる。しかし、厚生労働省主導で裁判に臨む市に、今のところ、その気配はうかがえない。(文中敬称略)
【編注】〓は「徹」の「ぎょうにんべん」が「さんずい」