期 待 世代や立場超えた共感
核兵器廃絶の行方を占う核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会には、長崎の被爆者や本県出身の大学生も駆け付けた。国際社会の核軍縮への動きの鈍さに対する焦りが彼らを駆り立てた。
核兵器廃絶を求める高校生一万人署名活動実行委の卒業生でつくる「21世紀平和ネットワーク」の伊東亜美(20)=長崎南高卒、ニュージーランド留学中=ら三人は、ニューヨークから新しい活動をスタートさせた。大切な人への思いを記してもらう「I ハートのマーク (アイラブ)」カードだ。
三人が参加した軍縮教育をテーマにしたワークショップ。伊東がカードを紹介すると、ニューヨーク在住の若い男性が手を挙げた。「米国は嫌い。核兵器や戦争で他の国を苦しめているから」。伊東は正直驚いた。
「核兵器も原爆もNOだけど、原爆を落としたのは政府。だから、私はあなたが暮らす町は好きだよ」。伊東はこう反論したが、男性はあきらめ気味に「OK」と言っただけだったという。
ニュージーランドに留学して二年間、たった一人で約四百五十人分の署名を集めた伊東。今度はカードを広げるつもりだが、生まれた国を嫌と言う男性の言葉が胸にひっかかったままだ。
被爆者の谷口稜曄(75)=長崎被災協副会長=は、体調がすぐれない中での訪米だった。「準備委で、自国の核保有は触れず、北朝鮮などを平気で非難する米国の壁をあらためて感じた」
落胆だけでもなかった。「『被爆者の訴えが核使用を阻む力になっている。語ることをやめたら、核を使う事態になるかもしれない』と多くの人に言われた」。谷口は、訴え続ける意味をかみしめた。
五月一日、ニューヨーク中心部の公園で開かれた反核デモ集会。
長崎市長の伊藤一長をはじめ、谷口、伊東ら大学生三人が顔をそろえた。長崎で活動するロックバンド「TATSUMAKI」の姿もあった。
「長崎から来た」。司会者がアナウンスするたび、大きな拍手と「NO MORE NAGASAKI」の声が自然と沸き上がった。
原爆でやけどを負った自身の写真を胸に抱いた谷口。21世紀平和ネットの草野史興(19)=筑波大二年=は「被爆体験を聞くことのない海外の若い人に伝えたい」と、被爆三世として語り継ぐ使命感を語った。「TATSUMAKI」は平和を願う被爆地の心を歌い上げた。
会場は「長崎への特別な期待」に包まれていた。立場や世代を超えた訴えは国境を超え、確かに伝わっていた。(文中敬称略)