たゆまぬ 歩み
 =被爆地からNPT準備委へ= 2

NGOセッションで演説する伊藤市長。後方で被爆者の谷口稜曄さんらが耳を傾けた=ニューヨークの国連本部

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たゆまぬ 歩み =被爆地からNPT準備委へ= 2 市長スピーチ 消えぬ「心の傷」強調

2004/05/20 掲載

たゆまぬ 歩み
 =被爆地からNPT準備委へ= 2

NGOセッションで演説する伊藤市長。後方で被爆者の谷口稜曄さんらが耳を傾けた=ニューヨークの国連本部

市長スピーチ 消えぬ「心の傷」強調

「二〇〇〇年の再検討会議で採択された『核兵器の全面廃絶に対する核保有国の明確な約束』は忘れ去られたのでしょうか」

四月二十七日、国連本部地下一階の会議場。核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会NGOセッションの冒頭、長崎市長の伊藤一長は、核軍縮の流れに逆行する国際社会を強い口調で非難した。

伊藤は「被爆体験による心的外傷後ストレス障害(PTSD)」をスピーチの柱に据えた。

「放射線を被ばくし、いつ発病するかもしれないとの不安からPTSDとなり、身体的健康度を低下させていることが科学的、医学的に実証された。これは世界的にも初めてのこと。五十九年たっても決して消し去ることのできない核兵器がもたらす悲惨な実態を理解してほしい」

長崎市などが求めた被爆地域拡大是正問題で、国の専門家検討会は二〇〇一年、爆心地から半径十二キロ内で原爆を体験した住民に「被爆体験による精神的、身体的な健康低下がみられる」と指摘。その根拠となったのがPTSDだった。

演説後、伊藤は被爆体験による「心の傷」を強調した理由をこう説明した。「世界初というのは、心に強く残るはず。六十年近くたっても、放射能後障害の不安がつきまとう実態は、核兵器の脅威を裏付けている」

セッションでは、伊藤や広島市長の秋葉忠利のほか、NGO代表十五人が登壇した。

秋葉は、会長を務める市長会議が提唱した核兵器廃絶に向けた緊急行動「2020ビジョン」について「明確な時間的枠組みを定め、二〇二〇年までにすべての核兵器を廃絶するための交渉を始めてほしい。核兵器のない世界が実現してはじめて、被爆者は安心して生きていくことができるのです」と英語で訴えた。

セッションは、準備委の議論にNGOの意見が反映される唯一の機会。会場は百人を超すNGO関係者が詰め掛け、熱気に包まれていた。準備委に合わせて渡米した被爆者の谷口稜曄(75)=長崎被災協副会長=、本県出身の大学生、草野史興(19)=筑波大二年=ら三人も三時間にわたるセッションを会場で見守った。

「被爆地の市長らしい発言でしたね」。二人の市長の発言に耳を傾けた谷口は、そう言って小さくうなずいた。しかし、肝心の各国政府代表のいすには空席が目立った。(文中敬称略)