危 機 「緊急行動」へ始動
伊藤長崎市長が四月末、ニューヨークで開かれた核拡散防止条約(NPT)再検討会議準備委員会に出席、NGOセッションで演説した。恒久平和と核兵器廃絶を願う被爆地の願いをよそに、米中枢同時テロやアフガニスタン攻撃、イラク戦争で幕を開けた二十一世紀。核拡散や核兵器使用の足音が消えない不穏な世界に、被爆地長崎の声はどう届いたのか。
四月二十七日。ニューヨークの空は、からりと晴れ渡っていた。マンハッタン島の東岸、ハドソン川の川辺にそびえる国連本部ビル前。長崎市長の伊藤一長、広島市長の秋葉忠利と海外十七都市の市長や幹部が集まった。国連加盟各国の国旗が穏やかな風に揺れていた。
秋葉が会長、伊藤が副会長を務め、世界百八カ国の五百七十九都市が加盟する国際非政府組織(NGO)「平和市長会議」は昨年十一月、長崎で開かれた「第二回核兵器廃絶―地球市民集会ナガサキ」で、核兵器廃絶に向けた緊急行動「2020ビジョン」を提唱した。
「ビジョン」は、二〇二〇年までに核兵器を廃絶することを目標に掲げ、その具体的な道筋を来年のNPT再検討会議で明確に導き出すために、自治体と反核NGOが連携した三段階の行動を設定。今回の準備委は、緊急行動の第一弾に位置付けられた。
NPTには「現在の五カ国による核保有体制を固定化する不平等条約」との批判がつきまとう。それでも、二十世紀最後の年、二〇〇〇年に開かれた再検討会議は「核保有国による核兵器廃絶の明確な約束」を含む最終文書を採択。「核なき新世紀」への希望が大きく膨らんだ。
だが、その新世紀は暴力と報復の連鎖で幕を開けた。さらに、米国は、使用を前提とした小型核兵器の研究を推進。北朝鮮の核兵器開発やパキスタンからの核兵器技術流出も表面化した。
一方、この間、〇二年と〇三年に開かれたNPT再検討準備委は見るべき成果を残せなかった。来年春の再検討会議まで一年。今年の準備委がどんなステップを刻めるか―は、そのまま来年の会議の行方を占うことにもなる。
「予想以上の集まり。心強いね。準備委の段階から強く働き掛けておかなければね」。伊藤は、集まった市長たちの顔を見渡し、演説会場に向かった。(文中敬称略)