米国の核戦略 コーディネーター 田巻 一彦さん(50) ピースデポ副代表 ◆反テロ理由に依存強化
米国の核戦略は、自国と他国で基準を使い分けるあからさまなダブルスタンダード。北朝鮮やイランなどが核保有に向かうことは大きな問題だ。だが、最大の核保有国である米国が後発国の核開発に目くじらを立て、核保有をやめさせるため小型核兵器で一撃を与えるなどと言いだしていることは、それにも増して重大な問題だ。
米国は国防予算に新型核兵器の研究費を盛り込み、地下深く潜伏する敵を攻撃目標にした「強力地中貫通型核」や小型戦術核の研究開発に着手する方針だ。
一九九三年以来、爆発力五キロトン以下の小型核兵器の開発や研究を禁止した「ファース・スプラット条項」が事実上廃止される。ブッシュ政権は、大量破壊兵器の拡散防止やテロ組織の壊滅を理由に、核兵器への依存をますます深めることになる。
これに対し、日本政府は被爆国であるにもかかわらず、日米同盟を盾にブッシュ政権への明確な異議申し立てをしようとしない。各国政府からも、はっきりと反対の声が聞こえてこない。その結果、米国の無反省な軍拡が進み、後発国の核保有を勢いづかせている。
二〇〇五年は被爆六十周年の節目であり、核拡散防止条約(NPT)再検討会議が開催される重要な年。被爆者が高齢化する中、広島、長崎の被爆体験と核廃絶を求める政治状況が交差する最大のチャンスだ。この期を逃さず、核廃絶の声を核大国にぶつけていかなければならない。
分科会では、米国の核戦略の問題点をできるだけ分かりやすく提示し、「何ということが起きているんだ」との思いを、まず共有したい。
ファース・スプラット条項 米国の1994会計年度国防権限法に盛り込まれた条項。核の小型化を図ることで通常兵器との威力の差異をなくし、安易な核兵器使用を防ぐのが目的だった。米議会の上下両院協議会は今月、研究から開発に移行する際の議会承認を前提に、条項廃止を決定。小型核兵器に加え、強力地中貫通型核の研究予算も認めた。