全国運動 「国は原点に返るべき」
「被爆者にはもう時間がない。運動は集団申請と訴訟という手段には限定しない。厚生労働省に行き、直接交渉でもねじ込んでいく」。長崎被災協の山田拓民事務局長は、運動の進め方についてこう話す。
日本被団協が集団訴訟まで見越した運動の開始を呼び掛けたのは昨年十月。二〇〇〇年の長崎原爆松谷訴訟の勝利を背に、国に認定方針の緩和を迫っていた長崎被災協は、被団協方針に一瞬、戸惑った。
今、集団申請の作業に忙殺される山田事務局長でさえ「松谷訴訟は十二年かかった。高齢化する被爆者が、今から長期の運動に耐えられるだろうか」という懸念が頭をよぎった。
原爆症問題に対する国民的関心は低い。医療関係者の間では、被爆から半世紀たち放射線起因性を判断しにくくなったことや、高齢化に伴う疾病一般の増加が申請数を押し上げたことで、必然的に認定率が低迷しているとの見方もある。
被団協は、集団申請・訴訟の効果として▽個人にかかる立証責任や裁判費用の軽減▽国に政策転換を迫る節目として世論に訴える―といった面も挙げた。長崎被災協は今年一月、集団申請への参加を決めた。「もう一度、原爆症と向き合う全国運動が必要だ」との判断だった。
長崎被災協は今春から、申請に参加する被爆者を募った。九日申請した十五人には、被ばく線量推定方式DS86を当てはめると認定審査で却下される例が多いとされる被爆距離二キロ以遠の被爆者や、過去に認定却下された経験がある再申請者などが含まれる。
十五人は原爆に遭い、重病に苦しみながらも、原爆症認定の枠外で生きてきた人たちばかりだ。被団協は声明で「厚生労働省は原爆被害を小さく、軽く、狭く見てきた」と認定行政の現状を厳しく断罪した。
坂口力厚生労働相は九日、認定方針を見直す考えのないことを言明した。これに対し、山田事務局長は「私たちは基準を緩めてくださいとお願いしてるんじゃない」と語気を強めた。「制度の出発当初は国自身が『国家補償的配慮で、疑わしいものは排除しません』と言っていた。そこに立ち返ればいいだけの話だ」