見えない境界 猛烈な通常兵器
「戦争が兵器を消費する。『テロと戦う』と言えば予算を確保できる。アフガニスタン、そして今はイラクと局面を自らつくり出し、また兵器を作り、開発する必要に迫られる」(元長崎大学長の土山秀夫)。土山の言う米政権を覆う軍産複合体の影を、東京国際大教授の前田哲男(62)も見詰めている。
米軍がアフガニスタンで軍事作戦を始めたころ、「米国が戦術核の使用を検討中」との報道が世界に衝撃を与えた。昨年十一月、長崎市長の反核政策を助言する平和推進専門会議で、軍事問題に詳しい前田は、核兵器や大量殺りくに対する概念が流動化している危険性を指摘した。
前田は今も「アフガンは、米軍の実験場にされた」と考えている。
米軍は、いったん地中にめり込んで破裂する貫通型のバンカーバスターや、広い範囲を一瞬で焼き尽くす気化爆弾であるデージーカッターなど猛烈な威力を持つ通常兵器を使用したとされる。
「これらの精密誘導性を高め、目標を正確に破壊する試みが、アフガンで展開された。バンカーバスターは、弾頭に小型核を装着することも可能。一方のデージーカッターは“ミニ核兵器”とも呼べる。無差別殺りく、大量破壊という効果の面で、核と変わらない」
前田の懸念は、通常兵器と核兵器の境界が不透明になっている点にある。大きな通常兵器と小さな核は、同等の威力を持つ。大きな通常兵器は、既に使用実績ができた。ならば小さな核も許される―。「米国は、こんな理屈を持ち出しかねない」(前田)
今月に入り米政府は、原発などで出る放射性廃棄物を通常爆弾に詰めて破裂させ、まき散らす「汚い爆弾」による攻撃を計画したテロ組織アルカイダの一員を逮捕した、と発表。ここでも境界はぼやけている。
放射線による急性障害と長期の後障害という核被害の特性は、通常兵器と明らかに一線を画する。「だから被爆地は核廃絶を叫び続けていく。一方で、無差別殺りく、大量破壊を体験した被爆者であればこそ、猛烈な通常兵器を批判する根拠がある。反核運動でそういう視点も重視してほしい」と前田は話す。(敬称略)