国の判断 「まだ終わりではない」
「二度続けての司法判断を真剣に受け止めるべき」。判決翌日の二十七日、原告の李康寧さん(74)をはじめ支援者らが東京の厚生労働省などを訪れ、国に「控訴断念」を詰め寄った。
先に大阪地裁で勝訴した同様の韓国人被爆者、郭貴勲さん(77)の訴訟で国側は控訴しており、支援者らには「今回も(国側は控訴するかも)」との危ぐが強い。二十六日の長崎地裁判決後には、一千枚のビラを長崎市中心部で配るなど、支援者らは控訴断念に向けた機運づくりに躍起だ。
被爆者健康手帳を取得した「在外被爆者」への被爆者援護法適用を求める訴訟は全国で四件。世界で五千人(厚生労働省推計)とされる在外被爆者の“代表”でもある原告たちはいずれも六十五歳を超す高齢者。早期救済が急務といえる。
長崎市若草町の元教諭で被爆者の広瀬方人さん(71)も「在外被爆者」だった一人。日本語講師として中国に赴任した間に健康管理手当を打ち切られた。「外国人だけの問題ではない」として、今年九月、長崎地裁に提訴した。
広瀬さんは一九九四年八月、赴任のため市に転出を届け出たのに伴い手当を打ち切られたが、翌年七月、再び転入を届け出、その後の三年間の中国滞在中は支給された。訴訟は行政のちぐはぐな対応を浮き彫りにした。広瀬さんは「裁判に勝ち在外被爆者問題の決定打にしたい」と話す。
国は約十年前、韓国へ四十億円の被爆者医療支援を実施して以降、目立った在外援護策は取っていない。有識者による「在外被爆者に関する検討会」は今月中旬、報告書で「国民全体がやや無関心であった感は否めない」と指摘した。各地の訴訟は消えかけた在外援護の火を再びともした。
国は来年度から法の枠外で在外被爆者の渡日治療支援などに乗り出す方針を示したが、法の枠内での援護との隔たりは大きく、不満は強い。在ブラジル原爆被爆者協会の森田隆会長は「国の当面の援護策は話にならない。われわれも裁判に訴えたい」。司法の後押しで解決を目指す動きも高まりそうだ。
控訴期限は来月八日。厚生労働省は「控訴するかどうか検討中」としているが、先の方針見直しには消極的。支援者らは「勝訴は終わりではない。政府、行政が『どこにいても被爆者』と認めない限り勝利ではない」と決意を新たにする。