評価と不満と 提言と「悲願」になお溝
早急な対応迫られる国
被爆者援護法が在外被爆者に適用されていない問題で、十日開かれた厚生労働省の検討会最終会合。坂口厚労相も八月の初会合以来、姿を見せ、医療や法律の専門家ら各委員の「個人的提言」に耳を傾けた。
退室するまでの約四十分間、意見にうなずきながらメモを取っていた坂口大臣は、委員が一通りの発言を終えると、一呼吸置いて口を開いた。
「被爆者はどこにいても被爆者という認識を忘れずに、(国は)最終的な結論を出さなければならないと思っている」。在外被爆者の高齢化が進む中、坂口大臣は「先送りできない問題」とも述べ、早急に決着させる決意を示した。
検討会がまとめた報告書では、焦点だった在外被爆者へ援護法を適用することの是非については判断を避けた。援護の具体策についても、出国で援護法に基づく健康管理手当が打ち切られる問題では「(代替策として)基金のような制度で居住国の実情などに応じ、何らかの金銭給付を行う仕組みも考えられる」などと、検討会で挙がった意見の併記にとどめた。
坂口大臣の途中からの出席が伝えられた同日の検討会。在外被爆者援護には法による明確な位置付けが不可欠との考えから、「(大臣が来たら)特別立法か援護法改正が必要ということを強調したい」と言いだす委員に対し、別の委員が「援護法改正については突っ込んだ議論をしていない。(大臣には検討会の総意ではなく)個人的な意見として言ってほしい」とくぎを刺した。起草委員会を含めても六回と限られた会合の中で、支援策や援護法適用問題をめぐり、相違する意見の集約までには至らなかった検討会の論議を象徴する場面でもあった。
結局、国に対する統一見解として検討会が示したのは「人道上の見地から、居住地によって援護の程度に差を見るのは不合理。適切かつ早急な施策を実現するよう強く要請する」との趣旨の数行の文章。
検討会終了後、座長の森亘・日本医学会長は「時間的な制約の中で、委員にはよく議論してもらった」と評価、委員の一人の土山秀夫・元長崎大学長は「現状に『ノー』を突き付けることができたことが一番の成果。個人的には内容に九十点を付けたい」と総括した。
しかし、こうした思いとは裏腹に、援護法適用で根本的解決を図ろうとする在外被爆者や支援者からは報告書に対して「具体性がなく、意見の羅列にすぎない」などと反発が広がり、「悲願」とはなお隔たりがある。その溝を国が少しでも埋めることができるのか―。ボールは投げられた。