格 差 初めて聞いた体験談
「高校生一万人署名」実行委員会による署名活動は、長崎市だけでなく佐世保、諫早、大村各市や離島にも呼び掛けの場を広げて行われた。しかし、メンバーは「長崎市に比べて“よそ”は反応が鈍い」との感想をよく口にした。
北松生月町出身の長崎南高三年、川畑亮人(17)は「違うのは当たり前」と感じる。
忘れられない経験がある。中学まで生月町で暮らし、長崎市の高校に進学して初めて聞いた被爆者の体験講話だ。「じかに生の体験談を聞いて、何だかズンと胸にくるものがあった」。それまで学習などを通じて原爆についての知識もあり、その悲惨さは知っていたが、被爆者の言葉から受けた衝撃はその何倍も大きかった。
「幼いころから身近で被爆者の話を聞くことができる長崎の生徒に比べると、(市外の生徒は)原爆や核兵器のことを考える機会が極端に少ない。それが“格差”の一番の理由だと思う」
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実行委に加わったのは、核兵器廃絶という目標よりはむしろ「高校生が集まって、何かを成し遂げようとする活動自体に興味を感じた」からだった。
初めて会ったほかのメンバーは、核兵器の問題などにそれぞれ自分の主張を持っており、自分よりもやけに大人に見えた。だが「実際に話してみて何が問題なのかよく分かった」。一緒に活動し意見を交わすうち、自らもいろいろと考えるようになった。
「核兵器は世の中に必要じゃないけど、核兵器が使われるのを抑制する役割を果たしているという考えもある。今すぐなくすのは難しいのかな…」。活動参加が関心を呼び覚ました。
地元の友人に署名を呼び掛けることはしなかった。「もし呼び掛けたら」という問いにも「あまり興味がないだろうな」
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若い世代の意識面での地域格差は、埋められるのか。「原爆の話を聞く機会を長崎市以外でもっと増やさないと。年齢の近い人間が話せば、少しは分かってくれるかもしれない」。考え始めるきっかけにできる人は、被爆地以外では少ないかもしれないが「それでも、ちょっとは違うはず」と言う。
「必要なのは、核兵器廃絶や平和を願う行動を、だれかが絶えず続けていくこと。子供が活動する内容を大人が考えても続かない」。生まれ育った場所がどこであれ、それは確かだと川畑は考えている。(文中敬称略)