行 動 身近にあった「きっかけ」
「高校生一万人署名」実行委員会のメンバーは署名活動だけでなく、長崎の平和団体などが六月に開いた「ながさき平和大集会」など反核平和に関するさまざまな行事に、積極的に参加。「これまでにない高校生の動き」として被爆地の注目と期待を集めている。
「いいと思ったことは何でもこだわりなく実行に移す高校生たちの“しなやかさ”に、何度も驚かされた」。高校生平和大使を派遣している平和団体のメンバーとして、実行委の活動を間近で見てきた平野伸人(54)は、そう振り返った。
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長崎南高校三年の吉田成完(18)=長崎市古河町=は「署名活動に取り組んだから、自然に興味がわいたんじゃないかな」と言う。
ながさき平和大集会では司会の大役を務めた。五日、日本原水禁の呼び掛けで広島市で開かれる子ども平和集会「メッセージ・フロム・ヒロシマ」でも司会を担当する。「同世代が考え始めるきっかけになれば」。そんな思いで臨むつもりだ。
祖母は被爆者だ。幼いころ、「後ろから光が走って、電車も自分も吹っ飛ばされた」と「あの日」のことを何度も聞かされた。「平和のために何かしなきゃ」との思いはいつも心の片隅にあった。だが高校に入ってからは特に行動を起こすことはなかった。
「何ができるか思い浮かばなかった。折りづるを折ったり、原爆の壁新聞を作ったりしたくらい。だれかがきっかけをつくってくれるのを待っていたのかもしれない」
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今年一月、一万人署名実行委が発足したことを新聞で知った。「行動しなきゃ」と思っていた心に、何かが引っ掛かった。数日後、もう一度新聞をよく読んで、実行委の集まりに行ってみようと決めた。
「(署名活動は)頭の固い連中ばかりでやっていると思っていたけど、加わってみたらみんな親しみやすかった」。参加してみて「被爆者の高齢化が進む中、被爆地で育った人間が一人でも多く被爆体験を受け継がないとすたれるばかり」と危機感を持つようになったとも。
「今思えばきっかけはすぐ身近にあった。動きだすのは遅かったが、一度動きだしたことで核兵器の問題などに関心を持つことができた」。普通の高校生たちがそれぞれ、ほんの一歩を踏み出したことが、被爆地に大きなうねりを生み出すきっかけとなった。 (文中敬称略)