涙 まず自分が変わらなきゃ
被爆地長崎の高校生が取り組んでいる「高校生一万人署名」活動は七月、目標の一万人を達成した。「核兵器廃絶を自らの手で実現しよう」と集った実行委員会の主体的取り組みに、次世代への継承を願う大人たちの期待は大きい。活動を貫いたメンバーの姿を追った。
「おまえたちに何が分かる。高校生がやったって何も変わらない」
中村麻美(16)=長崎西高校二年、長崎市弁天町=は、返す言葉がなかった。四月、同市松山町の平和公園で署名活動をした時のこと。吐き捨てた年配の男性はおそらく被爆者だと感じた。「重くて、悲しくて、自分たちは何をやっているのだろうと思うと涙が止まらなかった」
地元の平和団体などが海外に派遣している高校生平和大使を昨年務めた学校の先輩、石司真由美(17)に誘われ、今年一月の発足時から実行委に参加した。
しかし四月には、実行委全体を「本当に一万人を達成できるのか」という焦りが包んでいた。集めた署名はこの時期約二千人分に及んだが、市内の主だった学校で集め尽くした感があった。男性の言葉にショックを受けたのは「一番きつい時期」でもあったからだ。
気持ちがぐらついたことは何度もあった。そのたび「活動は自分のため。途中でへこたれたら意味がない」と気持ちを奮い立たせた。仲間と何度も話し合い「数よりも、どれだけ多くの人が核兵器廃絶を真剣に考えてくれるかが大事」という結論にたどり着いた。
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「署名に協力してもらえませんか」。五月、バスの中で一緒になった修学旅行の男子生徒に思い切って声を掛けた。東京の私立高校生だった。宿泊先まで出向いて趣旨を説明し、一クラス分の署名をもらった。「文化祭で原爆について発表したい」とその後、東京から連絡が入った。
「核兵器廃絶という目標は大きくて一気には実現できない。まず隣の人から始め、みんなで仲良くなればそれが平和につながる」と考える。同世代の若者や大人など、多くの人と手をつないでいく場となった実行委の活動を通して、それが確信できた。
「『変わらないかどうか、やってみないと分からない』と今なら、あの男性に答えられる」―。自信に満ちた表情で中村は言い切った。(文中敬称略)