キーパーソン 首相、厚労相の真意注視
「代わらないでくれれば…と思って見ていた」。国民的注目のなか四月に誕生した小泉政権。その組閣の日を長崎市幹部が振り返る。坂口力厚労相の留任を、被爆地域拡大を求める長崎関係者の多くが歓迎した。「原爆問題への理解度は何といっても坂口さんが一番。加えて出身の公明党は地域拡大に積極的」
ハンセン病訴訟判決では、大臣のいすをかけて国の控訴断念を主張したとされる坂口氏。だが、被爆者援護法を海外居住者に適用しないのは違憲の恐れがある、とした六月の在外被爆者訴訟大阪地裁判決で国は控訴。ハンセン病訴訟での脚光から一転、長崎の在外被爆者訴訟支援者を失望させた。
坂口厚労相は控訴を発表したその席で、被爆者援護法改正に言及。「被爆者認定や失格などの要件を明確にするべき」として検討会設置を表明した。在外被爆者の救済を意図するのか、その逆なのか―の真意をめぐり、受け止め方は割れた。
今月三日、長崎市であった地域拡大要請行動実行委員会。今後の政治判断に対し、被爆者団体代表の一人が懸念を漏らした。「厚労相より、むしろ(小泉純一郎)首相の判断が重要と感じるが、首相は原爆問題に少し温かみが少ない」
過去二度の厚相経験がある小泉氏。二度目の在任中だった一九九七年の長崎原爆の日、来崎した席で地域拡大に否定的な見解を述べた。翌九八年には、長崎、広島両市での建設計画が進んでいた国立原爆死没者追悼平和祈念館に対し「(既存施設と重複し)屋上屋を架す」と見直しを示唆。被爆地の反発を受けた。
その後、小泉氏はトーンダウンし、計画は続行された。被爆者として長年、国の厚生行政と向き合ってきた日本原水爆被害者団体協議会(被団協)の山口仙二代表委員は「小泉厚相」と直接会ったことはないが、と断った上でこう評する。
「坂口さんが被爆者問題に詳しいのは確か。一方の小泉さんの中には、国がよく使う『被爆者と一般戦災者とのバランス論』があるのだと思う。その意味では、官僚の方向性をくむ大臣だったのでは。首相になって変わったと思いたいが…」
坂口氏と小泉氏。政治決断のカギを握る二人を、被爆地は注視している。