被爆地域拡大の行方
 =決断を迫る長崎= 2

「昨夏の官民合同の大陳情、東京でのシンポジウムの盛り上がりで、運動に勢いがついた」と話す伊藤長崎市長=市役所

ピースサイト関連企画

被爆地域拡大の行方 =決断を迫る長崎= 2 PTSD調査報告 社会的関心 時流に合致

2001/08/04 掲載

被爆地域拡大の行方
 =決断を迫る長崎= 2

「昨夏の官民合同の大陳情、東京でのシンポジウムの盛り上がりで、運動に勢いがついた」と話す伊藤長崎市長=市役所

PTSD調査報告 社会的関心 時流に合致

被爆者の精神的健康度の低さを知った長崎市は、長崎大の原爆後障害や精神医学の研究者の助言を基に、被爆未指定地域の住民が原爆で受けた精神的影響に着目した。

一九九九年一月。長崎市役所は新年度予算の市長査定の時期に入った。原爆被爆対策部からの聴取の席で、伊藤一長市長が「住民の証言集を作ったらどうか」と口にした。同市長は振り返る。「未指定地域にも被爆した人がいるのは事実。その人たちは長年悔しい思いをしてきた。それを活字にしたら、強い訴えになるような気がした」

「被爆未指定地域証言調査報告書」が完成したのは昨年四月。「聞いてください!私たちの心のいたで」―。表紙に赤の文字で書かれたメーンタイトルの背後には、十一時二分で止まった柱時計の写真。原爆投下時に爆心から半径十二キロ以内のうち、市内か 周辺六町の未指定地域で“被爆”した人の体験を集めた。

さらに、太田保之・長崎大医療技術短大部長が担当した心的外傷後ストレス障害(PTSD)の調査結果も載せた。「PTSD臨床診断面接尺度」(CAPS)を用いて、住民のPTSD生涯有病率は6・4%、不全型(CAPSの症状評価項目をほぼ満たしているが完全ではない事例)は18・3%、と記した。

原爆を体験したのに法的援護の外で生きてきた人たちの中でのPTSDの出現状況を、数字としてはじき出して見せた画期的な内容だった。

被爆地域拡大は八〇年以降、「科学的・合理的な根拠の低さ」を理由に却下され続けてきた。報告書は「『科学的根拠』を示す“決定打”」という思いが込められた。

折から「心の傷」が社会の関心を集めていた。過酷な体験の後に起こる適応障害であるPTSDについて、阪神大震災の被災者や地下鉄サリン事件などの犯罪被害者を対象にした調査報告が相次いだ。九九年九月の茨城県東海村臨界事故でも、周辺住民の精神的被害の広がりが指摘された。

昨年夏、官民合同の大要請団が上京。政府や全国会議員を回り、報告書を届けた。地域是正を求めるシンポジウムも開いた。要請団は「図らずも時流に合致した」(内田進博・市助役)という手ごたえを感じ取った。