被ばく線量は補強材料
厚生労働省の研究班報告は「被爆体験」を主題に、未指定地域住民の心身の健康に被爆体験が悪影響を与えている状況を詳述した。しかし、その一方で同地域の被ばく放射線量にも言及。住民の健康への直接的影響を否定した。
「被爆体験の調査報告で、被ばく線量のことをあえて書く必要があるのか」。十六日夜、長崎市内で開かれた被爆地域拡大是正問題に関する地元専門家会議で、複数の出席者が懸念を口にした。
■不安材料に
検討会は、主に被爆体験者の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に関する研究をテーマにした。これを受け、同省研究班の調査も「被爆体験の影響」に焦点を当てた。それなのに被ばく線量にも言及したことは、これまで放射線を根拠とした是正要求を国に拒まれ続けてきた長崎の関係者にとって、大きな不安材料と映ったからだ。
この点を、研究班の主任研究者、吉川武彦・国立精神神経センター精神保健研究所名誉所長は「被ばく線量に触れたのは、被爆体験の影響を立証するための補強材料にするため」と説明する。
「健康への影響は被爆体験だけが要素ではない。加齢要素もあるし、原爆のことを扱う以上、被ばく線量も当然考慮する。被爆体験者にはそれらを勘案してなお、説明できない健康悪化が認められた。加齢や被ばく線量は、体験の影響をより明確にする『ネガティブデータ』。少なくとも今回の研究で、線量は主題ではない」と強調する。
国に提出される検討会報告は、研究班報告の論旨を踏まえ作成される。検討会委員の中根允文・長崎大医学部精神神経科教授は「検討会報告でも、線量に対する相応の言及はやむを得ない。ただ、(読み手に)誤解が生じないような記載にする必要はある」と話す。
■高まる期待
検討会報告がまとまれば、それを受けての国の判断が注目される。十六日、長崎市であった拡大是正要請行動実行委員会では「官民一体の取り組み強化」を確認。被爆者団体代表の一人は「現行の健康診断特例地域の拡大を勝ち取りたい」と意気込む。次回検討会は八月一日。悲願の被爆地域拡大は成るのか。高まる期待とともに、同問題は今、最大のヤマ場を迎えた。