邦人退避 国の具体案 明示されず
昨年6月の参院国土交通委員会。朝鮮半島有事を想定した在韓邦人退避と難民流入時の対処策について質疑が交わされた。政府参考人は「平素から関係省庁で連携して必要な準備、検討をしている」としつつ「具体的な内容は差し控える」と繰り返した。外務省海外邦人安全課は「情報を出すことで安全が損なわれる可能性がある」と説明する。
外務省によると、在韓邦人は2016年10月の時点で約3万8千人。旅行者らを加えると約6万人に上るとされる。政府関係者によると、政府は有事の際に韓国ソウルなどへチャーター機を派遣するほか、釜山(プサン)まで陸上輸送し、船舶で対馬を経由し日本本土に運ぶ案などを検討している。ただ地元自治体や民間の船舶会社に具体策は示されていない。
「黙って見捨てるわけにはいかない。ボランティアでも船を出す」。壱岐・対馬フェリーの真崎越郎社長(65)は在韓邦人輸送について検討している。同社は対馬、壱岐と博多港を結ぶ貨物フェリー2隻を定期運航。1995年の阪神大震災発生直後は九州運輸局の臨時の許可を得て、ボランティア約100人や救援物資を被災地に運んだ。
真崎社長は日韓の国境海上までフェリーを出し、ピストン輸送で対馬などに退避させる手順を検討。しかし「釜山に行くには法の手続きが必要になるし、船員組合の反対も予想される」と課題を口にする。
■
受け入れ先として想定される対馬市は、住民と切り離した環境で管理運営ができ、千人程度を収容できる体育館などをリストアップ。だが収容能力に加え、マンパワーの確保、飲料水や毛布など物資の備蓄には限界がある。市の担当者は「国に対応してもらわないと厳しい」と語る。
邦人退避は外務省、難民対策は法務省など、複数の省庁にまたがる。90年代に防衛駐在官として在韓日本大使館で邦人退避計画策定に関わった元陸上自衛隊幹部の福山隆さん(70)=本県出身=は一元的に指揮する政府機能や韓国政府の出先機関を対馬に置く必要性を説く。「県も権限を明示して総合調整できる人間を置かないといけない」と提言する。
その上で問題視するのは難民対策だ。「邦人の10倍、100倍に上るとみられる難民にどう対処するか。武装難民が紛れ込んでいることも想定され、水際対策が重要だ」