「Signs of Life」(1995年 Criss Cross Jazz) レジェンドの技法 随所に 平戸祐介のJAZZ COMBO・47

長崎新聞 2025/02/10 [12:20] 公開

「Signs of Life」のジャケット写真(cover photo courtesy by Criss Cross Jazz)

「Signs of Life」のジャケット写真(cover photo courtesy by Criss Cross Jazz)

大きい写真を見る
長崎ランタンフェスティバルが開催中ですね。長崎の街はいつも以上に異国情緒豊かに、そして極彩色に染まっていることでしょう。さて今回は、こちらも表現が多彩でありながら、伝統に根差したプレーに定評があるギタリスト、ピーター・バーンスタインが、1995年にオランダの名門ジャズレーベルCriss Cross Jazzから発表したアルバム「Signs Of Life」をご紹介します。
 バーンスタインは私と同じNYニュースクール音楽大学で学び、モダンジャズギターの礎を築いた巨匠ジム・ホールの手ほどきを受けました。デビュー当初からオーセンティックなスタイルのジャズを標榜し、サックス奏者のソニー・ロリンズ、ルー・ドナルドソン、ドラマーのジミー・コブといったレジェンドらと共演し、研さんを重ねます。そうして彼がシーンで頭角を表し始めた時期に録音されたのがこの作品です。
 ピアノはニュースクール大学の先輩にも当たるブラッド・メルドー、ベースは神童クリスチャン・マクブライド、ドラムはグレゴリー・ハッチンソンと、今やおのおのがスター街道に乗り、なかなか顔合わせすることが困難なメンバーで構成されています。若かりし日の彼らの初々しい演奏が聞けるということで大変貴重な作品となっています。
 内容も前述の通りジャズの伝統に根差したものになっており、抽象的な表現やフリーフォームな演奏は皆無。実にクリアカットで好感が持てるストレートアヘッドなジャズが展開されています。
 このアルバムが制作された90年代は、ジャズフュージョンから伝統的なモダンジャズが復権を遂げた80年代を経て、よりブラッシュアップされ先鋭化したジャズが主流になっていました。また、バーンスタインやメルドーをはじめ、作編曲でも能力の高いアーティストが一気に芽を出した時代でもあったのです。それは収録曲の半分を超えるバーンスタイン自身の楽曲にも如実に表れています。
 肝心の演奏は、ニュースクール音楽大学でジャズレジェンドらから直接学んだ表現技法が随所に散りばめられ、そのハーモニーやフレーズは理論書からは到底学べない宝物ばかり。ジャズを長年聴いてきた方々はうなるような部分だと思いますし、初心者の方々にとっては逆に斬新に聞こえるかもしれません。
 私はこのアルバムを聴くたびに大学時代に教わった教授陣やセッションを重ねた当時の友人らを思い出し、思わず背筋を正してしまいますね。(ジャズピアニスト、長崎市出身)