認知症の父の帰り待ち続け…家族が支援団体を設立 行方不明の悩み共有「不安和らげて」 長崎

長崎新聞 2024/09/20 [11:15] 公開

認知症行方不明者の家族の支援団体を設立した江東さん=長崎新聞社

認知症行方不明者の家族の支援団体を設立した江東さん=長崎新聞社

  • 認知症行方不明者の家族の支援団体を設立した江東さん=長崎新聞社
  • レストラン「いしだたみ」の前で写真に納まる坂本さん(江東さん提供)
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認知症による行方不明者の家族に同じ目線で寄り添い、困り事を共有し、見えにくい実態を社会へ伝えていこうと、当事者家族による支援団体が長崎市で設立された。代表理事を務め、約1年半、父の帰りを待ち続ける同市葉山1丁目の江東愛子さん(46)は「支援が行き届かず孤立してしまう家族が頼れる場にしていきたい」と話す。

 江東さんの父、坂本秀夫さん=当時(73)=は昨年4月、長崎市新中川町の自宅から夕方の散歩に出かけたまま、行方不明になっている。警察や市役所に相談し、交流サイト(SNS)も駆使して捜索しているが、今も手掛かりはつかめていない。

 江東さんは「警察の捜索打ち切り後にできることなどの情報が分からず、早く知っておきたかった行政の支援メニューもあった」と父が行方不明になった当初を振り返る。昨年11月、長崎市の鈴木史朗市長と面会し、その思いを伝えると、市側はすぐに支援内容を分かりやすくまとめたチェック表を作成し、ホームページに掲載。1人の小さな声が行政を動かした。

 SNS上では、同じ境遇の家族とつながり、「当事者にしか分からない思い」を共有。悩みや困り事も共通しており、話すことで気持ちが少し楽になった。「誰かが声を上げ、社会に実態を知ってもらわなければ改善されない」。8月下旬、当事者家族ら仲間11人で団体を立ち上げた。

 活動内容は、経験を踏まえた捜索に関する助言や、つながる場の提供、当事者家族による講話などを想定。警察と行政の連携強化や、家族への長期的な支援について国や自治体への提言も目指していく。

 全国に支部のある公益社団法人「認知症の人と家族の会」(京都市)によると、行方不明者家族の当事者団体は「聞いたことがない」といい、「相談窓口が増えるのはいいこと」と歓迎する。団体名は
「NPO法人いしだたみ・認知症行方不明者家族等の支え合いの会」。「いしだたみ」は、料理人の父がオーナーを務め、家族で営んでいたレストランの名前から取った。

 江東さんは「父はまだ生きていると信じている。でも、どうやっていいのか分からないのが現状」と苦しい胸の内を明かし、「活動を通じていろんな人とつながり(父が見つかる)何かヒントも見つかるかもしれない」と希望を口にした。

 警察庁のまとめでは、昨年、全国の警察に届け出のあった認知症やその疑いのある行方不明者は1万9039人。増え続ける背景を受け、江東さんは「私たちと同じ苦しい思いをする家族を減らしたい。気軽に相談してもらい、不安を和らげていければ」と語った。

 問い合わせは同団体(電080・7857・0689)。ホームページも開設している。賛助会員も募集中。

 坂本さんは身長約150センチで痩せ型。当時の服装は紺色のトレーナー、黒色の長ズボン、黒色のスニーカー、紺色の野球帽をかぶり、眼鏡をかけていた。同団体は心当たりがあれば110番してほしいと呼びかけている。