松浦のアジフライなぜ全国区に? 聖地宣言から5年…「サクサクふわふわ」支える仕掛け 長崎

2024/07/01 [11:30] 公開

松浦市内で提供されるアジフライ。肉厚でサクサク、フワフワの食感が楽しめる=松浦市内

松浦市内で提供されるアジフライ。肉厚でサクサク、フワフワの食感が楽しめる=松浦市内

  • 松浦市内で提供されるアジフライ。肉厚でサクサク、フワフワの食感が楽しめる=松浦市内
  • 松浦アジフライ憲章、取り組みによる主な受賞歴、数字で見るアジフライの聖地5年
  • 松浦のアジフライの魅力を語る友田市長=松浦市役所
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長崎県松浦市が2019年に「アジフライの聖地」を宣言して5年を迎えた。水揚げされたばかりの新鮮なアジを刺し身ではなく、あえてフライにして売り出す戦略が当たり、知名度は全国区に。サクサク、フワフワのひと味違う柔らかい食感が観光客を呼び寄せ、地域振興のけん引役に育ってきた。

 「この5年、アジ中心の生活になった」。今福町の焼き肉店きらく店主の下久保直人さん(59)は毎朝、伊万里湾にアジ釣りに出かける。店では市が聖地化に向けて連携店を募っていたのに合わせてアジフライの提供を始めた。
 湾内は養殖場が多く、まき餌の“おこぼれ”を食べて脂がのった肉厚の天然アジが育つ。下久保さんのアジフライのおいしさの秘訣(ひけつ)は港ですぐに血抜きし、2~3度の冷たい場所で一晩寝かせること。「そうすることで身が締まり過ぎず、ふわっとした食感が生まれる」。平日昼時や週末になると店には「肉厚サクフワ」を求める行列ができる。
 きらくのような連携店は6月末現在、市内に36店ある。市によると、連携店を名乗る条件は、ある掟(おきて)を守ること。聖地宣言の際につくった8カ条のアジフライ憲章だ。
 まずはアジフライをこよなく愛すること。そして、おもてなしの心で熱々を提供し、おいしさを深く追求しながら、広く伝播(でんぱ)する-。最後に「振興を通して世界平和を願う」と高らかにうたうこの憲章は松浦アジフライの理念であり、哲学であり、世界観そのものを表現している。
 聖地宣言の効果はさまざまなデータにも表れている。この5年で観光客数は約21万5千人増。グッズ売上額も約2・5倍になり、市内外でのぼり旗がはためく光景も当たり前になった。
 松浦を語る上で“キラーコンテンツ”となったアジフライ。市は5年の節目に併せて経済波及効果の分析に着手する予定で「松浦アジフライの魅力を国内だけでなく、海外にも広めたい」としている。


◎鮮度、品質管理を徹底…地元産使用を明記
 全国区の知名度になった松浦アジフライのこだわりはどこにあるのか。そのヒントはやはり連携店などが守る憲章の中にある。
 憲章は「ノンフローズン、またはワンフローズンで提供する」とルール化している。ノンフローズンは一度も凍らせずに作ること。ワンフローズンは水揚げされたばかりのアジをその日のうちにさばき、パン粉を付けるまで仕込んで一度だけ凍らせることを指す。
 魚は一般的に、保存などの目的で冷凍と解凍を繰り返すと、身の細胞が壊れて水分漏れを引き起こし、臭みの原因になる。ワンフローズンまでに抑える徹底した品質管理でアジ本来のうま味を楽しんでもらおうというわけだ。市内連携店では基本的にノンフローズンを食べることができる。
 そしてもう一つ。憲章には「松浦市で水揚げされたアジ、または市周辺の海域で漁獲されたアジを使用する」ことも明記する。地元産へのこだわりだ。
 養殖場が多くある伊万里湾は前述したように餌が豊富で湾全体が天然の養殖場のようなもの。加えて五島・対馬海域で4~8月に取れる100グラム以上のサイズは旬(とき)アジとして親しまれ、こちらも身がしまり、脂がのっている。
 店によってはパン粉に隠し味を混ぜたり、タルタルソースなど自家製の調味料にこだわったり。店それぞれのおいしさへの追求も聖地ブランドを支えている。

◎インタビュー 友田市長「地元では当たり前が宝物に」

 聖地化の旗振り役を担う友田吉泰松浦市長に今後の展望などを聞いた。

 -取り組んだ経緯は。
 (1期目の)市長選挙で松浦の宝物を探したときに水揚げ量日本一のアジがあった。今福神社(同市今福町)の宮司から「青魚は都会であまり食べられないし、加工品で売り出してみては」と助言をいただいた。食べておいしいのは当たり前で特別感はなかった。でも京都の居酒屋でアジフライを食べると身が薄くて、独特の匂いがする。これでおいしいのなら、松浦のアジフライを食べたら驚くのではと思った。
 当時、大分県中津市が唐揚げの聖地として知られていた。それならアジフライの聖地があっても面白いんじゃないかと思った。

 -波及効果の実感は。
 以前はよく「松浦には何があるの?」と言われていたが、この5年で知名度は格段に上がったと感じる。店頭にアジフライののぼりが立ち、週末や連休にはお客さんが並ぶ光景も見られる。松浦が多くの人たちの旅の目的地になった。

 -今後の目標と課題は。
 インバウンドが回復しているので海外の人たちにもおいしさを知ってもらいたい。いかに多言語化を図るかが鍵。「日本のアジフライっておいしいよね」と思ってもらったときに、ネット検索でヒットできる環境を整えたい。