未認定で母死去、出産のためらい…癒えぬ傷を吐露 カネミ油症検の検診始まる 長崎

2024/07/12 [10:45] 公開

油症検診で問診を受ける男性患者(手前)=五島市玉之浦支所

油症検診で問診を受ける男性患者(手前)=五島市玉之浦支所

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1968年に発覚したカネミ油症事件の被害患者らの健康状態を調べる本年度の長崎県内油症検診が11日、五島市玉之浦町を皮切りに始まった。同町の検診会場を訪れた患者からは、未認定のまま亡くなった母親への思いや、油症を理由に結婚や出産をためらった過去などを吐露する声も聞かれ、今なお癒えない心の傷が垣間見られた。
 油症検診は、全国油症治療研究班(事務局・九州大)から委託を受けた県が、国の補助金を活用し毎年実施。未認定の人の場合、検診結果は油症認定の可否を判断する材料になる。県によると、この日は認定29人、未認定4人の計33人が受診し、うち患者の子ら「次世代」は1人だった。
 受診した町内の女性(71)は事件当時、建設現場で働く兄2人がまかないでよくもらってきていた揚げ物を家族で食べて発症。このため母親と集団検診を受けたが「発症数が多い地域から居住地まで距離があるという理由で相手にもされなかった」と振り返る。母親は15年前、未認定のまま死去。10年前に兄2人が油症認定された後、女性もようやく認められた。「母は足の爪が真っ黒に変色し、最も症状が現れて苦しんでいた。なぜ認定されなかったのか」と悔やむ。
 町内の別の女性(71)は子どもの頃から目やにや倦怠(けんたい)感が続き、「体力に自信がなく子育てはできない」と思い、子どもがいる男性を結婚相手に選んだ。その後、体調が回復し2人の子をもうけたが、出産時は、油症患者から「黒い赤ちゃん」が生まれたと聞いていたため悩んだという。現在、同研究班による次世代調査も進んでいるが、2人の子のうち検診は40代の娘が一度受けただけ。「調査は良いこと。受診を促したこともあったが、忙しくて煩わしさもあるのか、あまり話題にしたがらない」と話した。
 県内の油症検診は、12日に五島市の奈留離島開発総合センター、8月4日に同市の福江総合福祉保健センター、同21日に長崎市の出島メッセ長崎でも実施する。問い合わせは県生活衛生課(電095・895・2362)。