温室効果ガス排出を実質ゼロにする「カーボンニュートラル」。三菱重工業は、エネルギー脱炭素化技術の開発を加速させるための中心拠点として、長崎市内の研究所と2工場をまとめて「長崎カーボンニュートラルパーク」と位置付け運用している。長崎造船所にとって造船と並ぶ主要事業の火力発電設備が脱炭素の逆風下で縮小していく中、それを補う収益源に育て、社会や地域に貢献し続けようとしている。
地の利
三菱重工はグループ全体の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年に半減(14年比)、政府目標より10年早い40年に実質ゼロにする目標を掲げている。ゼロは自社排出分はもちろん、自社製品による他社排出分も対象。化石燃料主体のエネルギーシステムから、再生可能エネルギーや脱炭素燃料を使うシステムに移行させる「エネルギートランジション」を推進する。
総合研究所長崎地区(深堀町5丁目など)では(1)アンモニアを燃焼するバーナーやガスタービン、船舶エンジン(2)水素製造装置(3)CO2回収装置-を柱に、幅広い技術を研究開発している。長崎工場(飽の浦町など)、香焼工場(香焼町など)と三位一体となり、開発・設計・製造を一貫して担える「地の利」がある。研究所はほぼ毎日、国内外から視察を受け入れ、関心の高さがうかがえる。
アンモニア
アンモニアは燃やしてもCO2を出さない。常温では気体。マイナス33度以下で液体になる。液化天然ガス(LNG)のマイナス160度や水素のマイナス253度と比べ、少しの冷却で液化し容量が小さくなり、低コストで輸送可能。水素をいったん液体アンモニアにして運ぶ手法も期待されている。ただ毒性があり、発電に大規模利用された実績はない。発電所で石炭との混焼率を高めればCO2排出を削減できる。
長崎では本年度、アンモニアバーナーの開発を完了する。30年までに安全性や高効率性を実証。発電事業者に売り込み、既存設備を改造する形で納入を目指す。
水素製造
長崎の研究所は長年、宇宙ロケット燃料として水素を扱ってきた。開発中の製造技術は主に三つある。
LNG主成分のメタンを加熱する「メタン熱分解」で取り出した水素は「ターコイズ水素」と呼ばれる。タンカーや発電タービンなど既存のLNG供給インフラを使えるメリットは大きい。大量の水素を低コストで製造し、副生物の炭素は固形で貯蔵しやすく再資源化もできる。長崎で開発を進め、26年に高砂製作所(兵庫県)のガスタービンで実証試験を計画している。
二つ目は「水電解」(AEM)。水を特殊な膜に染み込ませ電気分解して水素を取り出す。反応が良いため、太陽光・風力由来の電気が天候で変動しても対応できる。製品は世に出回っているが、三菱は小型化とコストダウンを図り、30年の市場投入をもくろむ。
三つ目の「水蒸気電解」(SOEC)は、水蒸気に電気を通し水素を取り出す。少ない電気で効率良く大量製造できるのが長所だ。4月から高砂製作所で400キロワット級デモ機が運転中。数年内にメガワット級も実証し、製品化につなげる。
もともと長崎では、燃料から電気をつくる燃料電池の開発実績があり、この逆反応を利用した。総合研究所長崎副地域統括の中馬(ちゅうまん)康晴氏は「30年間の燃料電池研究を積み重ねたからこそ、これだけ早く実現できた」という。
CO2回収
これらの新技術が普及してもまだ社会に残るCO2は積極的に回収し、地下に貯留するか、燃料に再利用する。三菱は関西電力と吸収液を共同開発。排ガスから分離回収する装置の世界トップシェアを誇り、各国の発電所で18基が稼働または建設中。長崎のパイロット装置は1日1トンを回収でき、さらに高効率化や低コスト化を図る。
課題
こうして地球温暖化防止や新市場創出につなげていく。長崎でアンモニアバーナーや水素製造装置を製造すれば、地元経済にも貢献できると見込む。
ただ、アンモニアや水素は化石燃料に比べ価格が高止まりしている。国や地域によって、再エネ導入状況や化石燃料への依存度、脱炭素の目標、支援制度も異なる。長崎造船所長の外野(ほかの)雅彦氏は「今後どう進展していくか予見が難しい。将来、多種多様な顧客ニーズに対応できるよう、さまざまな技術を備えておく必要がある」と話す。
地の利
三菱重工はグループ全体の二酸化炭素(CO2)排出量を2030年に半減(14年比)、政府目標より10年早い40年に実質ゼロにする目標を掲げている。ゼロは自社排出分はもちろん、自社製品による他社排出分も対象。化石燃料主体のエネルギーシステムから、再生可能エネルギーや脱炭素燃料を使うシステムに移行させる「エネルギートランジション」を推進する。
総合研究所長崎地区(深堀町5丁目など)では(1)アンモニアを燃焼するバーナーやガスタービン、船舶エンジン(2)水素製造装置(3)CO2回収装置-を柱に、幅広い技術を研究開発している。長崎工場(飽の浦町など)、香焼工場(香焼町など)と三位一体となり、開発・設計・製造を一貫して担える「地の利」がある。研究所はほぼ毎日、国内外から視察を受け入れ、関心の高さがうかがえる。
アンモニア
アンモニアは燃やしてもCO2を出さない。常温では気体。マイナス33度以下で液体になる。液化天然ガス(LNG)のマイナス160度や水素のマイナス253度と比べ、少しの冷却で液化し容量が小さくなり、低コストで輸送可能。水素をいったん液体アンモニアにして運ぶ手法も期待されている。ただ毒性があり、発電に大規模利用された実績はない。発電所で石炭との混焼率を高めればCO2排出を削減できる。
長崎では本年度、アンモニアバーナーの開発を完了する。30年までに安全性や高効率性を実証。発電事業者に売り込み、既存設備を改造する形で納入を目指す。
水素製造
長崎の研究所は長年、宇宙ロケット燃料として水素を扱ってきた。開発中の製造技術は主に三つある。
LNG主成分のメタンを加熱する「メタン熱分解」で取り出した水素は「ターコイズ水素」と呼ばれる。タンカーや発電タービンなど既存のLNG供給インフラを使えるメリットは大きい。大量の水素を低コストで製造し、副生物の炭素は固形で貯蔵しやすく再資源化もできる。長崎で開発を進め、26年に高砂製作所(兵庫県)のガスタービンで実証試験を計画している。
二つ目は「水電解」(AEM)。水を特殊な膜に染み込ませ電気分解して水素を取り出す。反応が良いため、太陽光・風力由来の電気が天候で変動しても対応できる。製品は世に出回っているが、三菱は小型化とコストダウンを図り、30年の市場投入をもくろむ。
三つ目の「水蒸気電解」(SOEC)は、水蒸気に電気を通し水素を取り出す。少ない電気で効率良く大量製造できるのが長所だ。4月から高砂製作所で400キロワット級デモ機が運転中。数年内にメガワット級も実証し、製品化につなげる。
もともと長崎では、燃料から電気をつくる燃料電池の開発実績があり、この逆反応を利用した。総合研究所長崎副地域統括の中馬(ちゅうまん)康晴氏は「30年間の燃料電池研究を積み重ねたからこそ、これだけ早く実現できた」という。
CO2回収
これらの新技術が普及してもまだ社会に残るCO2は積極的に回収し、地下に貯留するか、燃料に再利用する。三菱は関西電力と吸収液を共同開発。排ガスから分離回収する装置の世界トップシェアを誇り、各国の発電所で18基が稼働または建設中。長崎のパイロット装置は1日1トンを回収でき、さらに高効率化や低コスト化を図る。
課題
こうして地球温暖化防止や新市場創出につなげていく。長崎でアンモニアバーナーや水素製造装置を製造すれば、地元経済にも貢献できると見込む。
ただ、アンモニアや水素は化石燃料に比べ価格が高止まりしている。国や地域によって、再エネ導入状況や化石燃料への依存度、脱炭素の目標、支援制度も異なる。長崎造船所長の外野(ほかの)雅彦氏は「今後どう進展していくか予見が難しい。将来、多種多様な顧客ニーズに対応できるよう、さまざまな技術を備えておく必要がある」と話す。