「8月9日」知る、伝える 長崎原爆資料館・祈念館 来館者通じ合う 平和への思い

2024/08/10 [12:30] 公開

さまざまな人が見入った紙芝居=長崎市平野町、長崎原爆資料館

さまざまな人が見入った紙芝居=長崎市平野町、長崎原爆資料館

  • さまざまな人が見入った紙芝居=長崎市平野町、長崎原爆資料館
  • 自然光が差し込む静粛な空間で被爆体験記を朗読する男性=長崎市平野町、国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館
  • 爆心地の航空写真を説明する峯松さん=長崎原爆資料館
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爆心地近くの丘に並び立つ二つの施設はこの日、1年で最も多くの人を迎え入れる。「伝えたい」「知りたい」-。平和に向けた彼らの思いがここで通じ合う。
 午前8時半、長崎原爆資料館。「『8月9日の長崎』を過ごしてみたかった」という福岡県のフリーランス、河田功輔さん(33)は2日連続で来館した。「自分が思っていたより、もっと知るべき学ぶべき惨状がある。被爆者の記憶を焼き付けよう」。そんな思いを強くしたという。
 館内はさまざまな年齢や国籍の人々であふれていた。
 無料開放された地下の常設展示室では、山形県の壮年団体客に、被爆3世の峯松絢音さん(27)が熱線や爆風、放射線による被害などを説明していた。長崎平和推進協会のボランティアガイド「平和案内人」として「来館者の記憶に残る時間になれば」と丁寧に質問に答えていた。親しみやすい物腰でも指摘は鋭い。「戦争が繰り返されるのは当時を語る人がいなくなり、戦争が完全な過去の出来事となった時なのではないでしょうか」。すぐそばまで迫る「被爆者なき時代」への危機感がにじんだ。
 隣の国立長崎原爆死没者追悼平和祈念館。資料館に比べ静粛で、自然光が差し込む追悼空間に声や足音がよく響く。同館の朗読ボランティア「被爆体験を語り継ぐ 永遠の会」の男性が被爆体験記集などを読み聞かせていた。同会副代表の原尾尚美さん(65)は「原爆を原点とする戦争の記憶の発信。長崎にとって特別な日に、平和を祈る特別な場所で伝えることに意味がある」と被爆者の声に命を吹き込む心構えをこう語ってくれた。
 資料館の「いこいの広場」には人々が輪をつくって座り、市民団体ピースバトン・ナガサキによる紙芝居を見詰めていた。山口県の小学2年生、肥塚和叶さん(8)は折り鶴を持参した。大村市出身の母朋美さん(41)は「戦争の話を知っていてほしいと折に触れて娘に話すが、絵本や紙芝居は親しみやすい。初めて連れてきて、よかった」とほほ笑んだ。
 午前11時2分、サイレンが聞こえると館内は静まりかえった。誰もが目を閉じた。式典が終わると、さらに人波が押し寄せた。