長崎の離島住民「声どこまで拾う?」 小選挙区が再編…各陣営、時間確保に苦心 2024衆院選

2024/10/21 [12:15] 公開

慌ただしく離島を駆け巡り、マイクを握る候補者=五島市内

慌ただしく離島を駆け巡り、マイクを握る候補者=五島市内

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衆院選公示から3日目の17日午前5時40分、暗がりの長崎県新上五島町青方港に入ったフェリー「太古」から、3区に立候補した前職、元職の2人が下り立った。
 前日、2人は本土での選挙運動を終えると、午後11時45分博多港発の「太古」に乗り込んだ。タイトなスケジュールを組んでまで同町に朝一番に着く船便を利用したのは、「できるだけ離島での遊説時間を確保したかった」(両陣営)から。そんな思惑が、しのぎを削るライバル同士の“呉越同舟”となった。
 このうち、1人は福江島で予定していた夜の個人演説会に向かうため、二次離島の奈留島からは海上タクシーをチャーター。到着した福江島では待ち受けた顔なじみのドライバーに表情を緩ませ、「疲れました」と息をついた。
 区割り改定で、県内小選挙区が四つから三つになって初めての衆院選。これまで同じ旧3区だった五島、対馬、壱岐各市と新上五島町は2区(対馬、壱岐)と3区(五島、新上五島)に再編された。
 小選挙区数が減り、1選挙区当たりの有権者数が増加したのとは裏腹に、これら離島の有権者が占める比率は大幅に低下。陣営が本土から離島まで広範囲の選挙区をカバーしなければならない一方で、島の有権者からは「(ウエートが低くなった)離島の声をどこまで拾ってくれるのだろうか」との懸念が聞かれる。
 18日、五島市のある集落。候補者を乗せた選挙カーが姿を見せたが、別の場所に準備された演説会場へ向かうため、街頭に立つことなく慌ただしく通り過ぎた。長年、ここで店を営む女性(68)は「昔は約150世帯あったが、今は50世帯ほどで高齢者がほとんど」とぽつり。それでも「ここ数年、居心地の良さに引かれて若い人が移住してきている」とし、候補者たちには「離島の隅々まで目を向け、可能性にもっと光を当ててほしい」と注文した。
 そうした願いは2区の離島の有権者も同じだ。公示日の対馬。過熱する選挙報道とは対照的に候補者の姿はなかった。4人の候補者のうち、最初の1人が対馬入りしたのは18日。慌ただしく街頭演説をすると夕方前には島を離れた。別の陣営は「対馬へ行く時間が取れず、あきらめている」と語り、移動に時間を要する離島での選挙運動の難しさを口にする。この陣営は交流サイト(SNS)で支持を訴えていくという。
 本土以上に過疎化が進み、若者定住や雇用創出、高齢者対策など多くの課題に直面する離島。「もっと顔を出してほしいけどね」。対馬の70代男性は、本土の大票田に注力せざるを得ない候補者の事情に理解を示しつつ、寂しさをにじませた。