“捜査”を口止めされ従う「あの時は洗脳されていた」 長崎県内20代男性1264万円被害

2025/03/02 [11:00] 公開

静岡県警の安西を名乗る男とのやりとりが表示されたスマートフォンの画面。2時間おきに行動を連絡した

静岡県警の安西を名乗る男とのやりとりが表示されたスマートフォンの画面。2時間おきに行動を連絡した

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  • ニセ電話詐欺、SNS型詐欺の長崎県内被害状況
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警察官や検事などをかたり現金をだまし取るニセ電話詐欺の被害が長崎県内で増えている。昨年、静岡県警の刑事を名乗る男らから現金計1264万円をだまし取られた県内の20代会社員男性が取材に応じ、手口を証言。「今考えれば詐欺だと分かるのに。あの時は洗脳されていた」と振り返る。日常は一変し、借金返済に追われる日々を過ごす。

 ある日、男性の携帯電話にソフトバンクの社員を名乗る男から「あなた名義の電話番号から静岡県内の人に詐欺のメールが届いている」と電話があった。心当たりがないと答えると、「静岡県警の安西雄介」と名乗る男につながれた。ショートメッセージで警察手帳の写真が届いたが、「悪用防止のため」すぐに削除された。半信半疑だったが、「被害届は22件、あなたの拘束日数は1年8カ月」などと説明され、深刻な事態だと受け止めた。

 「ビデオ通話で取り調べをする」と言われ、男性は顔を映したが、安西のカメラはオフ。「詐欺に使用する個人情報をあなたが売ったことになっている。最近、個人情報が漏れたことはないか」と尋ねられた。

 数日前、クレジットカード会社から「不正アクセスがあり、個人情報が漏えいした可能性がある」との通知が書面で届いていた。「それだ。個人情報が悪用され、詐欺に加担したと疑われている。捕まるんだ」

 男性は不安な中、安西から「顔を見る限り、うそをついているとは思えない」と優しい言葉をかけられ、完全に信頼した。“捜査”を口止めされ、素直に従った。さらに「身柄を拘束しない優先調査」を提案された。「逃亡の恐れがないことを検事に証明するため」として2時間おきに行動を連絡し、風呂とトイレ以外は24時間ビデオ通話でつないだ。男性は仕事を休み、「起床しました」「実家に帰ります」と全て連絡した。

 5日後、「検事の北岡」と名乗る男から「お金を振り込めば優先調査にする」と電話。男性は消費者金融から借金し、インターネットバンキングで指定された口座に621万円を送金した。「やっと日常に戻れる」と思った数日後、「警視庁の坂本学」と名乗る男から「あなたの口座が兵庫県でマネーロンダリング(資金洗浄)に使われているようだ。口座のお金を調べる」と連絡があった。男性は“捜査”へ協力するためとして口座にあった43万円を振り込んだ。その後、坂本らと連絡がつかなくなった。

 「詐欺だ」。警察に相談したが、安西から言われた“守秘義務”に従い、静岡県警の件は話さなかった。

 男性が安西に電話で報告すると「なぜ勝手な行動をしたのか」と態度が急変。北岡からは「今すぐ逮捕するしかないが、お金をさらに振り込めば優先調査にする」と伝えられた。男性は家族から借金し、指定された口座に振り込んだ。

 翌日、安西からの連絡も途絶えた。静岡県警に電話を入れて、ようやく架空の人物だと分かった。

 約1カ月、なぜ誰にも相談せず、気付かなかったのか。男性は後悔している。詐欺に遭ったことはいまだに誰にも言えないが、同様の被害が出ないよう取材に応じることにした。「まともに生きてきたつもりなのに。若い人でも詐欺の被害に遭うことを知ってほしい」