言葉は平明でも意味はさっぱり分からない。竹下登元首相の話術は「言語明瞭、意味不明」といわれた。例えば、国会のやりとりで。「私の答弁、よくぐるぐる回りすると言われるんでございますが、ぐるぐる回りながら到達したところは(中略)結局ぐるぐる回りしてみますと、ああいうものではないかと」…▲人をけむに巻く達人でもあったのだろう。かたや「あ~う~」の話法が特徴の大平正芳元首相は、話はスローで進まないが意味は明瞭だったという▲新種の「言語不明瞭」かもしれない。就任から半年の石破茂首相は難解で古風な言い回しがお得意らしい。いわく「いつにかかって私の責任だ」▲「全て私の責任」と言えばよさそうだが、読書好きで言葉が豊富という首相は瞬く間に「より難しい言い回し」を頭で探すのが習いなのだろう▲「約束に背く」を「違背(いはい)」、「心を配る」を「配意(はいい)」…。へえ、物知りな首相だね、と誰が感じ入るだろう。語るべきは意味明瞭で、ふに落ちる言葉をおいてほかにない▲竹下元首相は「なるほど」「ほうほう」「へぇ、さすが」の3語で自民党内を押さえた…と、誇張交じりの言い伝えがあって、人心をつかむすべには長(た)けていたという。今の首相は語彙(ごい)が豊富でも、人の心をつかむ易(やさ)しい言葉は不得手らしい。(徹)
言語不明瞭
長崎新聞 2025/04/03 [09:45] 公開