龍馬の“難敵”

2024/08/14 [09:39] 公開

万葉歌人の大伴旅人(おおとものたびと)は一時期、太宰府の長官を務めた。赴任地から都を懐かしんだらしい。万葉集に一首がある。〈龍(たつ)の馬(ま)も 今も得てしか あをによし 奈良の都に行きて来(こ)むため〉(巻五)▲天をかける龍の馬が欲しいなあ。都に行ってくるために、と。龍の馬とは「龍馬(りゅうめ)」、すぐれて俊足の馬を指す。九州から都へ、ひとっ飛びするほどの龍馬は、今の飛行機や新幹線に当たるだろう▲便利な現代の龍馬だが“難敵”もいる。人が大移動する頃を見計らったように襲う地震や台風がそうだろう。万葉歌人と同じく「帰心(きしん)、矢のごとし」の帰省客にも、「遊び心、矢のごとし」の行楽客にも、困り顔の人は多いとお察しする▲8日夕、宮崎県沖で発生した地震を受けて発表された「巨大地震注意」は、もうしばらく呼びかけが続くらしい。宮崎などでホテルや旅館のキャンセルが相次ぎ、打撃を受けた▲加えて台風が盆休みの終わりに関東を直撃する可能性もある。本県でも、ひと時の帰省で骨を休めつつ、帰りの龍馬の足止めを案じる人もいるだろう▲増水で渡れなくなった川を詠んだ古川柳に〈川留めに腹の立つほど富士が晴れ〉とある。空は晴れても爪痕は残る。台風一過のそんな光景を見ずに済めばいいものを。空は時に、腹が立つほどに青く澄む。(徹)