伝統芸能にベトナム女性3人が挑戦中 広がる小さな国際交流 長崎・諫早

長崎新聞 2024/08/16 [12:00] 公開

本番直前の「人数揃い」で衣装を身に付け練習するスオンさん(前列左)ら

本番直前の「人数揃い」で衣装を身に付け練習するスオンさん(前列左)ら

  • 本番直前の「人数揃い」で衣装を身に付け練習するスオンさん(前列左)ら
  • 西里町浮立に初参加するベトナム人女性たち。左からビンさん、タムさん、スオンさん
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18日に開かれる長崎県諫早市御手水町の御手水観音の大祭で奉納される同市西里町の伝統芸能に、3人のベトナム人女性が挑戦中だ。同町が今年の当番町として奉納する「浮立一式」に加わる。3人は地道に積み重ねてきた練習の成果を披露しようと張り切っている。

■7年ぶりに
 大祭は例年8月18日以降の日曜日に西長田地区の5町が開き、田畑を潤す水の恵みに感謝して五穀豊穣(ほうじょう)や家内安全を願う。西里町が浮立一式を奉納するのは、新型コロナウイルス禍での中止を挟んで7年ぶり。
 「参りましょーう、参りましょ」
 8月初旬、夕暮れの西里町公民館で、住民たちが楽しそうに口ずさみながら踊りの稽古に汗を流していた。
 西里町浮立一式は、少なくとも250年以上前から伝わるとされる。子どもたちが鬼の面を着けて小太鼓を打ちながら踊る「かけ打ち」、かねや笛の音色に合わせて力強く太鼓を打ち鳴らす「浮立」などが次々に登場する勇壮な伝統芸能。それぞれの持ち物から「はさんばこ(挟み箱)」や、火消しのまといを思わせる「道具」などと名付けられた踊りもあり、大名行列のようににぎやかに、広場を周回していく。
 ベトナム女性3人が挑戦するのは、複数の金属が入った袋が付いた長さ約2メートルの竹棒を、交代で持ちながら踊る「台傘(通称、シャカンシャカン)」。女性らしいしなやかな所作が特徴で、全員の息をそろえ、上げた手の高さをそろえることなどがポイントだという。

■出演を快諾
 3人は首都ハノイ市近郊出身のグエン・ティ・ホン・タムさん(39)、中部ダナン市近郊出身のグエン・ティ・ビンさん(38)、南部ホーチミン市近郊出身のニエ・ティ・トゥ・スオンさん(29)。2019年から21年にかけて来日した。西里町で菊などの花を生産する「金原園芸」で、3年間の外国人技能実習生期間を終え、特定技能外国人として働いている。
 日本での「お母さん」として世話をする取締役の金原和美さんは「とても真面目で働きぶりも良い。何事も頑張る彼女たちの夢がかなうよう応援したい」と温かい目で見守る。
 大人数が必要な西里町浮立一式にとって、人手不足は深刻な課題だ。今年7月、まつりに出演してもらえないかと松竹恭貴自治会長から相談された3人は、日本の郷土芸能に興味があり快諾した。22年9月の「のんのこ諫早まつり」では「まつりのんのこ」に挑戦。昨年の長崎くんちでは本石灰町が奉納した「御朱印船」で、こし入れするアニオー姫の従者役を務めた経験もある。
 浮立では、初めて稽古に参加した日から「動きをそろえてもっと上手に踊りたい」と手本を動画で撮影し、仕事の休憩中など暇を見つけては地道に練習を続けている。
 地域住民たちは「若い人が少ないのでとてもありがたい」「日本にこんな文化がある事を、ベトナムの人にもぜひ紹介してほしい」と歓迎。来日したばかりの頃はすれ違っても会釈する程度だったが、今では「おはようや、さようならはベトナム語ではどう言うの?」など、積極的に話しかける住民が増え、小さな国際交流が始まっている。

■夢膨らませ
 「諫早の人はいつも笑顔で親切」「地元の人と話す機会が増えうれしい」「振り付けは最初は難しく感じたが、皆さんと一緒に踊れて楽しい」。3人は屈託のない笑顔を見せる。「参りましょーう」の掛け声はタムさんとスオンさんも受け持つ。
 「ベトナムの家族にも伝統芸能に参加している姿を見てもらいたい」「帰国後も日本企業で働きたい」「将来は通訳や日本語教師になりたい。日本とベトナムをつなぐ懸け橋になれれば」と、3人の夢は膨らむ。
 西里町民約130人(関係者含む総勢約200人)が浮立一式を奉納する大祭は18日午前10時から、御手水観音で開催。浮立は大祭の後、西里町公民館などでも披露する。