ビデオの2025年問題

長崎新聞 2025/04/19 [17:35] 公開

歌人の坂井修一さんに昔日を思う一首がある。〈端擦れしビデオテープの中に来て三歳の子がわれに雪投ぐ〉。3歳のわが子がビデオ映像にふと現れ、撮影者だろう作者に雪を投げている▲歌には「ひとりの日曜日」と詞書(ことばが)きがある。その子、息子さんはすでに巣立ったらしく、作者は日曜に一人、昔のビデオを回している。擦り切れたテープの画像がいささか不鮮明なのは、撮影から時間がたつ上に、繰り返し見てきたからだろう▲デジタル撮影した画像に劣化はないが、ビデオテープはやがて擦り切れる。最後に販売されたテープはいま、耐用年数の限度に差しかかっているという。VHS再生機器(ビデオデッキ)も生産終了から9年たち、今もお持ちの人はあまりいないだろう▲テープは限界、デッキは姿を消すという「ビデオの2025年問題」が起きている。1980~90年代に流通したビデオが今年くらいをめどに見られなくなるとされる▲子どもの入学式、卒業式、スポーツの試合…と、大切な思い出の映像が“消滅”しかねない。VHSテープの映像をDVDに移す作業の依頼が、ダビング専門業者に多く寄せられているという▲大型連休も遠くない。デジタル画像になってよみがえった昔日を家族で、一人で、鑑賞する時間旅行も悪くないだろう。(徹)