「中教審」。単語はたまに耳にするが、日ごろの仕事内容とどう関係しているのか、正直実感がなかった。先日、文科省の担当官の話を聞く機会があり、なるほどこれは無視できないと認識を新たにした。
中教審とは中央教育審議会の略称で、生涯学習やスポーツも含めた教育全般に関する大方針を示す文科大臣の諮問機関である。2月に「我が国の『知の総和』の未来像」という答申を取りまとめている。
「知の総和」と言われてもピンとこないが、要は今後急速に少子化が進むなかで、社会全体の活力を高めるために、大学をはじめとする高等教育にできることは何か、学生をどう育てるべきかが問題になっていると理解できる。
推計結果によると、今後10年から15年にかけて大学入学者数が激減し、現在の64万人から46万人にまで落ち込むという。大学進学率を上げ、留学生を増やすにしてもこの状況が大きく改善する見込みは薄い。
試合にたとえるならば、3割近く選手を減らされる状況で、対戦に臨まねばならないことになる。その中で全体の「総和」を減らさず、むしろ高めていこうとするならば、個々人が単純に3割増し以上の能力を発揮できなければならない。もちろん、現在の国力を維持・発展させる方向ではなく、人口減に合わせたコンパクトな社会を目指すのも一つではある。その場合も、軟着陸の手だては欠かせない。
では、どうするのか。具体的な政策や今後の工程はこれからということだが、答申にはいくつかの方向性と方策が示されている。いかに教育の質を高めるかの取り組みも重要だが、地方の視点からは、高等教育への「アクセス確保」に向けた方策に注目したい。
これから再編・統合・縮小・撤退の波にさらされる大学の命運は、地域にとっては大学とのつながりが損なわれる事態ともなりうる。進学先としての物理的距離のメリットにとどまらず、地元産業の発展や、地域文化を支える知的資源として大学が果たす役割を再認識し、地域総出で今後を考える土台づくりが求められている。また、大学以上に地域に根ざしている高校との連携もさらに模索したいところで、地方自治体が全体の調整に果たすべき役割も増すだろう。
強いて言えば、高等教育機関を社会の駆動力として生かすも殺すもその地域次第-ということになる。多くの壁を越えて共に未来を考え、共に次代を育てることができた地域は、10年後、20年後の人口減にあっても、新たな活力を獲得できるだろう。そうした局面に立たされているということを自覚しておきたい。
【略歴】にしむら・あきら 1973年雲仙市国見町出身。東京大大学院人文社会系研究科教授。宗教学の視点から慰霊や地域の信仰を研究する。日本宗教学会理事。神奈川県鎌倉市在住。
中教審とは中央教育審議会の略称で、生涯学習やスポーツも含めた教育全般に関する大方針を示す文科大臣の諮問機関である。2月に「我が国の『知の総和』の未来像」という答申を取りまとめている。
「知の総和」と言われてもピンとこないが、要は今後急速に少子化が進むなかで、社会全体の活力を高めるために、大学をはじめとする高等教育にできることは何か、学生をどう育てるべきかが問題になっていると理解できる。
推計結果によると、今後10年から15年にかけて大学入学者数が激減し、現在の64万人から46万人にまで落ち込むという。大学進学率を上げ、留学生を増やすにしてもこの状況が大きく改善する見込みは薄い。
試合にたとえるならば、3割近く選手を減らされる状況で、対戦に臨まねばならないことになる。その中で全体の「総和」を減らさず、むしろ高めていこうとするならば、個々人が単純に3割増し以上の能力を発揮できなければならない。もちろん、現在の国力を維持・発展させる方向ではなく、人口減に合わせたコンパクトな社会を目指すのも一つではある。その場合も、軟着陸の手だては欠かせない。
では、どうするのか。具体的な政策や今後の工程はこれからということだが、答申にはいくつかの方向性と方策が示されている。いかに教育の質を高めるかの取り組みも重要だが、地方の視点からは、高等教育への「アクセス確保」に向けた方策に注目したい。
これから再編・統合・縮小・撤退の波にさらされる大学の命運は、地域にとっては大学とのつながりが損なわれる事態ともなりうる。進学先としての物理的距離のメリットにとどまらず、地元産業の発展や、地域文化を支える知的資源として大学が果たす役割を再認識し、地域総出で今後を考える土台づくりが求められている。また、大学以上に地域に根ざしている高校との連携もさらに模索したいところで、地方自治体が全体の調整に果たすべき役割も増すだろう。
強いて言えば、高等教育機関を社会の駆動力として生かすも殺すもその地域次第-ということになる。多くの壁を越えて共に未来を考え、共に次代を育てることができた地域は、10年後、20年後の人口減にあっても、新たな活力を獲得できるだろう。そうした局面に立たされているということを自覚しておきたい。
【略歴】にしむら・あきら 1973年雲仙市国見町出身。東京大大学院人文社会系研究科教授。宗教学の視点から慰霊や地域の信仰を研究する。日本宗教学会理事。神奈川県鎌倉市在住。