与野党7党は今月5日に国会内で「選挙に関する各党協議会」を開き、そこで自民党がSNSを使った選挙活動を巡る論点整理案を提示した。選挙運動を名目とした営利行為(関連投稿による収益化)への対応や、偽情報の削除対応をはじめとしたSNSを運営するプラットフォーム事業者の責任明確化などが中心になっており、本年5月より「プロバイダ責任制限法」から名称が変更され改正されることになっている「情報流通プラットフォーム対処法」(情プラ法)の改正も視野に入れているという。
情プラ法では、大規模プラットフォーム事業者に対し、削除対応の迅速化や、運用状況の透明化に関わる措置(削除基準の策定、対応状況の公表制度など)を義務づけるとともに、罰則を設けることになっている。
この改正自体は、インターネット上での誹謗(ひぼう)中傷や風評被害への対応を強化するために必要なものだと評価される。だが、これから運用を開始する情プラ法に関して効果検証がなされていない段階で、選挙運動を理由としたさらなる改正を図ろうとすることは慎重に考えた方が良いのではないだろうか。なぜなら、これは民主主義の根幹にかかわることでもあるからだ。
表現の自由の法的性格の一つに、自己統治の価値というものがある。私たち国民が表現活動を通じて政治的な意思決定に関与することを保障するというもので、表現の自由には民主制に資する社会的価値が認められている。
情プラ法では、一応、事業者が自主的にプラットフォームの適切な運用整備を実施するよう制度設計されているのだが、総務大臣の措置命令に違反した場合には刑罰が科されることから、罰則を背景とした命令監督手法を採ることになる。それは結局のところ、事業者の背後から政府が国民の表現活動の規制を強化することにつながるのである。
もちろん、選挙運動を理由にしたとしても、誹謗中傷による名誉毀損(きそん)や侮辱は正当化されるものではなく、表現の自由の保障範囲外であることには変わりがない。公職の候補者に関する虚偽事項の公表についても同様である。
だが、その上で、政治的な表現内容の規制に事実上踏み込むことになるのではないか、憲法で禁止されている検閲・事前抑制にはあたらないか、政党の情報公開や透明性の確保を多くの国民が不十分だと思っている状況下でファクトチェックが信頼できるのか-など、さまざまな疑念が生じるのである。少なくとも、今夏の参院選に向けた拙速な法改正だけは避けるべきである。
【略歴】しばた・まもる 1977年、北九州市出身。長崎総合科学大准教授を経て、2023年度から独協大法学部教授。日本犯罪学会事務局長・理事。専修大学大学院法学研究科博士後期課程修了・法学博士。
情プラ法では、大規模プラットフォーム事業者に対し、削除対応の迅速化や、運用状況の透明化に関わる措置(削除基準の策定、対応状況の公表制度など)を義務づけるとともに、罰則を設けることになっている。
この改正自体は、インターネット上での誹謗(ひぼう)中傷や風評被害への対応を強化するために必要なものだと評価される。だが、これから運用を開始する情プラ法に関して効果検証がなされていない段階で、選挙運動を理由としたさらなる改正を図ろうとすることは慎重に考えた方が良いのではないだろうか。なぜなら、これは民主主義の根幹にかかわることでもあるからだ。
表現の自由の法的性格の一つに、自己統治の価値というものがある。私たち国民が表現活動を通じて政治的な意思決定に関与することを保障するというもので、表現の自由には民主制に資する社会的価値が認められている。
情プラ法では、一応、事業者が自主的にプラットフォームの適切な運用整備を実施するよう制度設計されているのだが、総務大臣の措置命令に違反した場合には刑罰が科されることから、罰則を背景とした命令監督手法を採ることになる。それは結局のところ、事業者の背後から政府が国民の表現活動の規制を強化することにつながるのである。
もちろん、選挙運動を理由にしたとしても、誹謗中傷による名誉毀損(きそん)や侮辱は正当化されるものではなく、表現の自由の保障範囲外であることには変わりがない。公職の候補者に関する虚偽事項の公表についても同様である。
だが、その上で、政治的な表現内容の規制に事実上踏み込むことになるのではないか、憲法で禁止されている検閲・事前抑制にはあたらないか、政党の情報公開や透明性の確保を多くの国民が不十分だと思っている状況下でファクトチェックが信頼できるのか-など、さまざまな疑念が生じるのである。少なくとも、今夏の参院選に向けた拙速な法改正だけは避けるべきである。
【略歴】しばた・まもる 1977年、北九州市出身。長崎総合科学大准教授を経て、2023年度から独協大法学部教授。日本犯罪学会事務局長・理事。専修大学大学院法学研究科博士後期課程修了・法学博士。