うその話を信じ込ませて宅配便で現金を送らせてだまし取る「送付型」の特殊詐欺。長崎県内の過去5年間の被害は年間1千万円を超える。現金回収までの一連の手法とは-。被害に遭いそうになった女性が詐欺の手口や感じた恐怖を語った。
◆「黙って聞けよ」
4月中旬、佐世保市の70代女性宅の電話が鳴った。男が「イオンスマイルのサカモト」を名乗り「○○さんの自宅ですか」と確認。女性は「なぜ電話番号や名前を知っているの?」とふに落ちなかったが応じた。
男は同市での介護施設の建設計画を説明し、入居したいか尋ねた。断ると「あなたに優先入居権があるが、より重度の人がいるのでその人に譲っていいか」と求められ、承諾した。男は「優しいですね。ありがとうございます」と話し、静かに電話を切った。
同24日、再び入居の件で電話がかかってきた。女性は忙しくしていて「大丈夫」と答えたが、男は「大丈夫じゃねぇんだよ、黙って聞けよ」と一変。怖くて即座に電話を切ったが、着信音は鳴り続けた。
◆だまされたふり作戦へ
不審電話は全国で相次いでいた。今年1月と4月に流通大手イオングループのイオンリテールはホームページで有料老人ホームの勧誘などは一切していないと注意喚起している。
5月1日、孫の担任教諭が家庭訪問で来た際に電話が鳴った。出ないと心配されると思い受話器を取った。今度は優しい口調。「別の入居者が決まりました。ありがとうございます。損保会社から後で電話があります」
不審に思った女性はその後の電話には出ず、交番へ相談。警察はニセ電話詐欺の可能性が高いと判断し、女性に犯人逮捕への協力を依頼した。「だまされたふり作戦」へと攻勢に転じた。
◆模擬紙幣を用意し…
県境を越えて相次ぐニセ電話詐欺。今年4月、都道府県警が連携して被害を食い止めようと、「特殊詐欺連合捜査班」が発足した。通称「TAIT」(タイト)。絆や同盟を意味し、長崎県警も捜査に当たる。
5月2日朝、不審電話がかかってきていた佐世保市の70代女性宅に県警捜査員が録音機などを設置。早速、損保会社社員を名乗る男から電話がかかった。「あなたの名前で他人が入居申し込みをするのは名義貸しで犯罪」と迫ってきた。
女性が捜査員の指示通り「知らない。取り消してくれ」と訴えると、「キャンセル料がかかる」と言われ、今度は有料老人ホームの勧誘をしてきたサカモトから電話。「キャンセルに300万円かかる。社長にばれると困り、こちらは100万円しか用意できない。200万円負担してください」と要求してきた。
女性は捜査員と銀行で100万円2束分の模擬紙幣を用意。箱に詰めて指定された住所に送付し、サカモトに電話で伝えた。
TAITの捜査員たちは送り先の東京都葛飾区のマンションで待ち伏せ、同10日、受け取りに現れた横浜市の無職の男(31)を逮捕した。詐欺の電話をする「かけ子」役は焦ったのか、その後しばらく女性宅の電話は断続的に鳴り続けた。
◆検索履歴に「闇バイト」
逮捕された男の初公判は7月18日、長崎地裁佐世保支部であった。検察側の冒頭陳述によると、男は高校を中退後、自動車関連の仕事をしていたが、その後は日雇いで働いていた。「詐欺の可能性を認識していなかった」と無罪を主張している。しかし、スマートフォンの検索履歴には「闇バイト」「運び」「住居侵入逮捕」などが残っていた。
検察側は、男が友人やヤミ金融から借金を重ねて金に困り、関東で相次ぐ連続強盗事件の実行犯と同様、闇バイト経由で犯行に及んだとみている。
犯行グループは同様の手口で岐阜県と京都府の高齢女性に現金を送らせており、長崎地検は男を回収役として3件起訴している。
◆「知っておかないと危ない」
県警組織犯罪対策課によると、うその話を信じ込ませて宅配便で現金を送らせてだまし取る「送付型」の特殊詐欺は昨年、県内で2件認知され、被害額は計約6750万円。今年は9月末時点で170万円がだまし取られている。
佐世保市の女性は被害に遭わなかったが「罪とあおられると、どうにか金をつくろうとするかもしれない。テレビなどで事前に詐欺の手口を知っておかないと危なかった」と冷や汗をにじませた。
◆「黙って聞けよ」
4月中旬、佐世保市の70代女性宅の電話が鳴った。男が「イオンスマイルのサカモト」を名乗り「○○さんの自宅ですか」と確認。女性は「なぜ電話番号や名前を知っているの?」とふに落ちなかったが応じた。
男は同市での介護施設の建設計画を説明し、入居したいか尋ねた。断ると「あなたに優先入居権があるが、より重度の人がいるのでその人に譲っていいか」と求められ、承諾した。男は「優しいですね。ありがとうございます」と話し、静かに電話を切った。
同24日、再び入居の件で電話がかかってきた。女性は忙しくしていて「大丈夫」と答えたが、男は「大丈夫じゃねぇんだよ、黙って聞けよ」と一変。怖くて即座に電話を切ったが、着信音は鳴り続けた。
◆だまされたふり作戦へ
不審電話は全国で相次いでいた。今年1月と4月に流通大手イオングループのイオンリテールはホームページで有料老人ホームの勧誘などは一切していないと注意喚起している。
5月1日、孫の担任教諭が家庭訪問で来た際に電話が鳴った。出ないと心配されると思い受話器を取った。今度は優しい口調。「別の入居者が決まりました。ありがとうございます。損保会社から後で電話があります」
不審に思った女性はその後の電話には出ず、交番へ相談。警察はニセ電話詐欺の可能性が高いと判断し、女性に犯人逮捕への協力を依頼した。「だまされたふり作戦」へと攻勢に転じた。
◆模擬紙幣を用意し…
県境を越えて相次ぐニセ電話詐欺。今年4月、都道府県警が連携して被害を食い止めようと、「特殊詐欺連合捜査班」が発足した。通称「TAIT」(タイト)。絆や同盟を意味し、長崎県警も捜査に当たる。
5月2日朝、不審電話がかかってきていた佐世保市の70代女性宅に県警捜査員が録音機などを設置。早速、損保会社社員を名乗る男から電話がかかった。「あなたの名前で他人が入居申し込みをするのは名義貸しで犯罪」と迫ってきた。
女性が捜査員の指示通り「知らない。取り消してくれ」と訴えると、「キャンセル料がかかる」と言われ、今度は有料老人ホームの勧誘をしてきたサカモトから電話。「キャンセルに300万円かかる。社長にばれると困り、こちらは100万円しか用意できない。200万円負担してください」と要求してきた。
女性は捜査員と銀行で100万円2束分の模擬紙幣を用意。箱に詰めて指定された住所に送付し、サカモトに電話で伝えた。
TAITの捜査員たちは送り先の東京都葛飾区のマンションで待ち伏せ、同10日、受け取りに現れた横浜市の無職の男(31)を逮捕した。詐欺の電話をする「かけ子」役は焦ったのか、その後しばらく女性宅の電話は断続的に鳴り続けた。
◆検索履歴に「闇バイト」
逮捕された男の初公判は7月18日、長崎地裁佐世保支部であった。検察側の冒頭陳述によると、男は高校を中退後、自動車関連の仕事をしていたが、その後は日雇いで働いていた。「詐欺の可能性を認識していなかった」と無罪を主張している。しかし、スマートフォンの検索履歴には「闇バイト」「運び」「住居侵入逮捕」などが残っていた。
検察側は、男が友人やヤミ金融から借金を重ねて金に困り、関東で相次ぐ連続強盗事件の実行犯と同様、闇バイト経由で犯行に及んだとみている。
犯行グループは同様の手口で岐阜県と京都府の高齢女性に現金を送らせており、長崎地検は男を回収役として3件起訴している。
◆「知っておかないと危ない」
県警組織犯罪対策課によると、うその話を信じ込ませて宅配便で現金を送らせてだまし取る「送付型」の特殊詐欺は昨年、県内で2件認知され、被害額は計約6750万円。今年は9月末時点で170万円がだまし取られている。
佐世保市の女性は被害に遭わなかったが「罪とあおられると、どうにか金をつくろうとするかもしれない。テレビなどで事前に詐欺の手口を知っておかないと危なかった」と冷や汗をにじませた。