漢字とはややこしく、面白いものだとよく思う。職場の分厚い漢和辞典を開けば、「朝」という字の「古訓」、つまり古い読み方として「あした、あつまる、つとめて、とも」…。ずらりと並んでいる▲別の読み方、「名のり」では「あした、かた、とき、とも」…と、こちらもいろいろある。人名に当てられる訓読み「名乗り訓」のことで、源頼朝の「朝(とも)」は、その名が付けられた時代には新しい読み方だったらしい▲名乗り訓は平安時代からあったとされる。中国では「一つの漢字に一つの読み方」が普通というが、“輸入”した日本では、さまざまな読み方が広がった▲その“名乗り文化”を尊重するのか、漢字の本来の読みや意味を重んじるのか。議論は熱を帯びたという。法制審議会の部会が戸籍の氏名の読み方について「一般に認められているもの」とする考えをまとめた▲国民5千人のアンケートで、漢字の音読みや訓読み、慣用的な読み方に限るべきという案に支持が集まった。それが決め手になったらしい▲〈太郎とは男のよき名柏餅(かしわもち)〉長谷川櫂(かい)。「太郎」を「じろう」「マイケル」と読むのは認められない方向という。確かに、こんな読み方も名乗り文化の一つだ、と言うのは無理がある。「よき名」とは突飛すぎる発想から生まれにくいものらしい。(徹)
「よき名」とは
長崎新聞 2023/02/06 [10:15] 公開