国内有数のヤブツバキの自生地、五島列島。古くからつばき油などが特産品として親しまれているが、高齢化で採取する人や、製油者が少なくなっている。九州大の研究者や市民らは、こうした地域の課題に向き合う環境保全型ツアーを検討。9月には先行して、大手航空会社が五島市で「スタディーツアー」を実施した。今月25、26両日には同大が企画したツアーを初めて開く予定で、関係者が「学びの旅行」を推進している。
■魅力的商品
9月中旬、五島市浜町のツバキ林。残暑の日差しが照り付ける中、東京、福岡の大学生や研究者ら7人が、かごいっぱいに約20キロの実を採った。同行した五島市の永冶克行さん(74)が、この量でできるつばき油が20分の1の約1キロであると説明すると、参加者は一様に驚いた。
日本航空とジャルパックが企画した2泊3日のスタディーツアーでは、つばき油搾りも体験。初めて五島を訪れた東京の女子学生は「実の採取から製油までほとんど手作業で思ったより大変。つばき油の魅力などを認知してもらい、課題解決に進めれば」と考える。
両社の若手グループはコロナ禍の中、地方に焦点を当てた企画を考える中で、九州大の五島での取り組みを知った。日本航空九州支社の窪田開さんは「地域の課題解決と新しい旅の提供で、地域とウィンウィンの関係ができれば」と展望を語る。
■伝統を守る
五島列島は多くのツバキが自生。古くから各家庭で採取し、加工して使われてきた。だが、採取は昔ながらの手摘み。人手が入らず、荒れつつあるツバキ林もある上、生産者や製油者の高齢化が進み、後継者も少なくなっている。
ツバキによる地域振興を目指す五島市のNPO法人カメリア五島。土地の所有者が管理できないツバキ林の整備や、地権者から依頼を受けて採取してきた。時期は暑さが残る初秋。会員約20人は60代以上で、脚立を使い、安全面に注意しながら次々に採っていく。理事長を務める永冶さんは「大変だが、伝統なので守っていきたい」と話す。
■海岸清掃も
こうした実態をツーリズムとして、永冶さんらと検討してきたのが九州大大学院の清野聡子准教授(生態工学)。2007年から五島で海洋環境や、ツバキの防風林に囲まれた「円畑(まるはた)」を研究してきた。「地域の課題を深掘りし、知った人がその後の研究や事業に生かしてもらえれば」と清野准教授。昨年から旅行事業者ら向けのモニターツアーを実施するなどしてきた。
今月25、26両日に実施する九州大企画の「五島島民と触れ合う椿(つばき)と海の学びツアー」。島内外からの参加者が見込まれ、日本ジオパークに認定された貴重な自然を巡り、つばき油搾り体験や工場を見学。延泊者は里山やツバキの実の管理、海岸清掃も体験する。
清野准教授は「自然との共生に着目したツアー。調査研究の成果を共有してよりよいコンテンツにして続けていきたい」と説明。永冶さんは「地元の課題に対し、みんなで協力する仕組み作りができれば」と意欲をみせる。