万博きょう開幕

長崎新聞 2025/04/13 [09:45] 公開

かつて雲仙・普賢岳噴火災害の取材で「ショルダーホン」という機器を持ち歩いたことがある。肩から提げる携帯電話のことで、百科事典のような「箱」の上に受話器が乗っかっている。箱の中身はバッテリーで、全体の重さは3キロあった▲最先端の機器を手にした感想は「お、重い」…。1985年に実用化されたが、一般にお披露目された場はその15年前、大阪万博だった。コードのない受話器を手に、にこやかに会話を交わす人の映像が残っている▲これに限らず「動く歩道」に電気自転車と、55年前の万博で“夢の未来”の例として紹介された技術には、のちに実用化されたものも多い。未来を照らす光源、それが万博なのだろう▲準備は遅れ、経費は膨らみ…と、いい話は聞かなかった大阪・関西万博がきょう開幕する。技術の進歩とは裏腹に世界では環境破壊も気候変動も止まらない。まぶしいばかりではない未来をどう映すのだろう▲展示の一例に「ミニ心臓」がある。人工多能性幹細胞(iPS細胞)を用いた心筋シートをヒトの心臓に似せて立体化させたという。生命を支え、未来にぬくもりを添える展覧会になるといい▲かつての大阪万博では、月の石に人類の進歩を重ね見た。天上を仰いだ視線を、私たちが立つ足元に戻して、万博が始まる。(徹)