長崎市宝町の市道とその下を走る国道が交わる「稲佐立体交差」。県は当初、市道の高さに道路を平面化する計画だったが、地元住民の理解を得られず、2020年10月の着工予定時期を大幅に過ぎている。さらに民間による大規模プロジェクトが近くで進んでいることも重なり、立体を維持するのか平面化するのか結論は出ていない。県公共事業評価監視委員会は今月上旬、この工事を含む「JR長崎本線連続立体交差事業」の完成時期を、今月末から2年先の24年3月まで延長することを了承した。
JR長崎駅から国道を北に約1キロ進むと、宝町交差点がある。交通量が多く、渋滞することもある。交差点を左折すると下り坂になり、JRの旧在来線と並走する市道の下をくぐる「立体交差」がある。そこを抜けると市西部の稲佐方面に向かう。
だが20年3月に在来線が高架となり立体交差は不要となった。雨が底部に10センチたまると通行止めになる不便さもあり、県は立体交差を埋め立てて、道路を平面化する計画を立てていた。そうなれば現状の相互3車線が6車線に増え、渋滞解消にもつながるとの判断だった。
だが地元住民は逆に貯水機能が失われ、道路が冠水するリスクを懸念。県と長崎市は地下への貯留槽設置などの対策を示したが、「不十分」とする一部住民の理解を得られなかった。さらに歩行者が市道の路側帯を通行できなくなり、県は新たに歩道橋などを設置するとしているが、住民の女性は「(バリアフリーではなく)歩行者に優しくない」と指摘する。
このため県は再検討を余儀なくされた。住民の理解だけではなく、別の要素も新たに加わった。近くの三菱重工長崎造船所の工場跡地で通販大手ジャパネットホールディングス(HD、佐世保市)が進める「長崎スタジアムシティプロジェクト」。24年の開業を目指しており、完成すれば立体交差の上を走る市道の通行車両と歩行者数が大幅に増えることが見込まれる。
このため県は必ずしも平面化するのではなく、現状の立体交差を維持する案も検討。市道上のスムーズな流れをどう確保するかが課題という。
立体維持を望む地元自治会の末永久志会長(71)は「住民の日常生活に支障がないように安全第一で整備してほしい」と求める。県長崎振興局は昨年6月までに4回住民説明会を開催。新年度早々にも5回目を開いて住民の理解が得られる計画を示し、早期に着工したい考えだ。