ジャズを楽しむ上で極上の雰囲気を醸し出してくれる楽器ビブラフォン。金属製の音板を持つ鉄琴の一種で、内部の共鳴パイプの上に付いているファンが回転し、それによって作られる音色のゆらぎが、独特の甘い響きを生むのです。
しかし、持ち運びが大変なことや演奏者が少ないなどの理由から、この楽器はジャズ界であまり高く評価されていませんでした。しかし、1940年代後半、若き名手ミルト・ジャクソンが現れ、ビブラフォンは注目を浴びます。そして彼の対抗馬としてシーンに躍り出たのが、今回紹介するレム・ウィンチェスター(1928~61年)です。
ウィンチェスターは管楽器奏者だった高校時代、天才トランペット奏者クリフォード・ブラウンとバンド仲間でした。ブラウンに影響を受けたせいか、ウィンチェスターはビブラフォンでも説得力や温かみがあるフレーズを奏でるのにたけていました。大先輩のレッド・ノーヴォやライオネル・ハンプトンを踏襲する、伝統的かつ革新的プレーヤーになる器を持ったアーティストだったのです。
59年のアルバム「WINCHESTER SPECIAL」(prestige)では、当時のジャズシーンの中枢を担いつつあったサックス奏者ベニー・ゴルソン、“名盤請負人”の異名を持つピアニスト、トミー・フラナガンらを迎え入れ、気合の入った濃密なビブラフォンジャズを聴かせてくれます。
この作品は日本のジャズファンにも、ウィンチェスターの存在を知ってもらう良いきっかけとなったアルバムでした。今もなお、この1枚を聴いてジャズが好きになった、またビブラフォンの魅力に取りつかれたという方々もたくさんいると聞きます。
一方で、ウィンチェスターは、元警察官でおとこ気にあふれブラックジョークも大好きという、やんちゃな人だったと伝えられています。そんな性格が災いしてか、61年、彼は出演していたクラブでなんとロシアンルーレットに興じ、不運にも32歳という短い生涯を閉じてしまいました。
もしウィンチェスターが順風満帆に活動をしていたら…。ビブラフォン界、いやジャズ界への貢献は計り知れないものだったでしょう。今日は彼の才能を惜しみつつ「WINCHESTER-」に針を落とそうと思います。
「WINCHESTER SPECIAL」(1959年・prestige) 才能に恵まれながらも早世 平戸祐介のJAZZ COMBO・8
長崎新聞 2021/10/11 [11:55] 公開