任期満了に伴う諫早市長選の告示(21日)まで1週間を切った。4選を目指す現職の宮本明雄氏(72)に対し、元国土交通省職員、山村健志(つよし)氏(47)、前県議の大久保潔重(ゆきしげ)氏(55)=いずれも無所属=の新人2人が挑む三つどもえの構図とみられる。三者三様の主張や持ち味に支持層が分かれ、市を分断する激戦が予想される。
「非常事態を乗り切り、経済を立て直せるのは宮本さんだけ」-。宮本氏の陣営関係者は、3期12年の実績や行政手腕を挙げ、新型コロナウイルス感染の収束が見通せない中、市政継続の必要性を重視する。
市は現在、諫早駅周辺再開発事業や小栗地区の南諫早産業団地などの大型事業を推進。宮本氏は「50年に1度の大事業は道半ば。大きな花を咲かせたい」と訴える。
昨年11月の出馬表明後、感染防止に配慮し、大規模な集会は自粛。公務の合間に地域の集まりなどに出向く。「今までと方法が違い、全体では分かりにくいが、個々の反応は分かる」と宮本氏。後援会や地元県議の八江利春氏の後援会、建設業や土地改良団体、市職員OBらが組織を固める。
一方で2005年、市と合併した旧5町の人口減少は著しく、小長井町は約25%減、伊木力・大草地区は約27%減。市全体の減少率(約7%)を上回る。「合併して何もいいことなかった」-。3期12年の宮本市政への閉塞(へいそく)感を背景に、変化を求める声もある。
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若い視点で現市政の発展を目指すのは山村氏。昨年6月に国交省を退職、9月に出馬表明した後、早朝のつじ立ちや各地域での街頭ミニ演説で「草の根」に徹する。並行して、会員制交流サイト(SNS)で活発に情報発信する。
中小企業、子育て世代、大学生らとのミニ集会は1月から50回を超す。「10年後、人口1万人増」の目標を設け、「諫早で働く人が諫早に住むための政策」や国で防災やまちづくりに携わった知見を説く。「晴れた日に避難場所や方法を学ぶ」「安全な場所に家をつくるための新たな都市計画が必要」「働く場を作れば周辺がにぎわってくる」-。発想の転換と国家公務員を潔く辞した志への支持が一定広がりつつある。
それでもつきまとうのが「諫早市出身でない」という声。西彼長与町出身だが、母親は諫早市多良見町出身。山村氏は「『よそもの』だから諫早の宝が見える」とメリットを強調。陣営関係者は「地元出身の市長が必須なら、諫早に住みたいと思う人が減るのではないか」と首をかしげる。
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古くから農林水産業で栄え、保守的な思考が根強い地域。「現職批判」と「地元志向」の市民の“受け皿”になりつつあるのが大久保氏。元参院議員の知名度を生かし、各地域を丹念に歩く「炎のローラー」を展開。宮本氏支持が多いとみられている旧合併町の一部に拠点を設け、地域特有の課題に耳を傾ける。
「合併後、人口減少や町の活気がなくなり、市民の不満はピークに達している」。市民の声を肌で感じ、旧5町の支所を中心としたにぎわい創出、高齢者などの交通弱者対策などに力を注ぐ。地場産業の振興による市の総生産と市民所得の向上などの政策をSNSで発信している。
戦後、行政出身の市長が大半を占める同市に、政治家出身の大久保氏が風穴を開けるかも注目の一つ。県議選や参院選、衆院選を計8回戦った経験を持ち、「各地域で集票の鍵を握る人を押さえる回り方をしている」という見方も。一方、政党や労働団体などの後押しが少ないとされ、地盤である市中心部の浮動票の獲得がポイントとなりそう。
継続と変化、実績と若さ、行政力と政治経験、組織と草の根-。複数の対立軸が交錯する中、人口減少や防災対策、新型コロナ対応などの争点を巡り、政策論議が求められる。