9月17日付長崎新聞本紙で、難病の筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者で、長崎市在住の泉清隆さん(50)の記事を掲載したところ、他のALS患者の家族から「在宅介護している家族の様子を知りたい」との声が寄せられた。泉さんの妻奏子さん(36)に、夫を支える日常を取材した。11日は「介護の日」。
ALSは全身の運動神経が侵され、人工呼吸器を装着すれば24時間の介護が必要な病。泉さんは2002年にALSと診断された。現在、人工呼吸器や栄養摂取のための「胃ろう」を装着。自宅のベッドで寝たきりの生活を過ごし、まばたきで周囲と意思疎通を図っている。
2人の出会いは16年5月ごろ。東京の介護施設でヘルパーをしていた奏子さん=千葉県出身=が、在宅療養の見学のため、泉さんを訪問したのがきっかけ。その後も奏子さんは、泉さんのことが気になって週に1回来崎。会えない期間は無料通信アプリ「LINE(ライン)」でやりとりを重ねた。半年後、泉さんからこう伝えられた。「結婚したいけど、無理かな」
奏子さんは泉さんと過ごすと、「時間の大切さを実感し、一日一日を丁寧に生きよう」とする意識が芽生えた。「一緒にいると、人生が豊かになるな」。そう思い、17年に結婚。2人の子どもに恵まれた。
◇
長崎県難病医療連絡協議会の松尾秀徳会長によると、ALS患者の療養は病院・施設への入院か、在宅かのどちらかが一般的。人工呼吸器を着けると、たんの吸引が必須となり24時間介護が必要になる。
医師の指導を受ければ家族でもたんの吸引ができるが、ヘルパーは講義などを受けた認定・登録者に限られる。県内で医療費助成を受けているALS患者は122人(3月末現在)。ALSに対応できるヘルパーは十分ではなく、人材をどう確保するかが課題となっている。
泉さんは10年に自前で介護事業所を設立。現在ヘルパー6人を雇用している。奏子さんがサービス提供責任者となり、1日3人が24時間態勢で交代で勤務している。食事は1日2回胃ろうから200ミリリットルの栄養剤を注入。1食は味が濃いお好み焼きなどの固形物を細かくして、口から摂取する。
奏子さん自身、介護の経験がある上、ヘルパーの協力もあって、育児と介護を両立できている。ただそれでも、外出時は救急車のサイレンの音で不安になり、泉さんの呼吸が止まったことを知らせるアラームの幻聴が聞こえることもある。停電も天敵で、たんの吸引などに対応するため蓄電器を備えている。
ALSを患いながらも、結婚して家庭を持ち、自ら在宅療養の態勢を整えたことについて泉さんは「奇跡だ」とし、奏子さんも「恵まれている」と話す。ただ多くのALS患者にとって安心して在宅療養を送ることが難しい現実がある。
松尾会長は「介護力のない家族は長期入院を求めるが、病院側は経営的な問題で、十分な態勢が整っておらず受け入れにくいのが現状だ」と指摘。当事者や家族からは公的支援の充実を求める声が多い。
11日は泉さん夫妻の結婚記念日。取材中、奏子さんは、ベッドに横たわる泉さんに「これからもよろしくね」と温かいまなざしを注いだ。