音の新しい効能

長崎新聞 2025/04/17 [09:45] 公開

〈腹筋(はらすじ)をよりてや笑ふ糸ざくら〉という古句がある。糸ざくらは、枝が伸びて垂れる枝垂(しだ)れ桜の別名で、風に揺れて咲く枝垂れ桜を、腹の皮をよじって笑う姿に例えたのだろう▲「咲」という字は「わらう」とも読む。花が咲き、わらうこの季節、耳を澄ませば春の笑い声があちらこちらで聞こえるかもしれない▲川のせせらぎに鳥のさえずり、木の葉がこすれる音…。実際に耳で聞く自然音も“幸せホルモン”の分泌を促し、人の心を和らげる効果があるとされる。心安らぐ音に、誰しも頼ったことがあるだろう▲自然音や心地よい音楽に限らず、音には幅広く、奥深い効能があるらしい。特殊な音を聞くだけで乗り物酔いを予防できる可能性があると、名古屋大などの研究チームが医学専門誌に発表した▲80人が1分間、100ヘルツの低音を聞き、ブランコなどに乗る。すると、大半が音を聞かない時に比べて、ふらつきが減ったりしたという。耳の内部にある平衡感覚をつかさどる細胞が、音で活性化されると考えられている▲通勤中、移動中のバスや電車でスマートフォンを見ることの多い現代は、乗り物酔いをしやすくなったとされる。心安らぐ音かどうかは知らないが、100ヘルツの低音を聞いて乗車するのが、通勤や移動の“新常識”になるかもしれない。(徹)