メクル第495号 潜水上手 カンムリウミスズメ 天然記念物 絶滅の心配

2020/10/17 [14:59] 公開

海面スレスレを飛ぶカンムリウミスズメ。12~5月の間、野母崎沖でよく見られます=長崎市(木村智美さん撮影)

海面スレスレを飛ぶカンムリウミスズメ。12~5月の間、野母崎沖でよく見られます=長崎市(木村智美さん撮影)

  • 海面スレスレを飛ぶカンムリウミスズメ。12~5月の間、野母崎沖でよく見られます=長崎市(木村智美さん撮影)
  • 教えてくれた人 長崎大環境科学部動物生態学研究室 山口典之(やまぐち・のりゆき)准教授
  • 生まれたばかりのひな(山口准教授提供)
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 一生のうち9割(わり)の時間を海の上で暮(く)らし、陸に上がるのは年に1回、卵(たまご)を産み温めるときだけ-。国の天然記念物にも指定されているカンムリウミスズメという海鳥が、長崎県の近海でも目撃(もくげき)されています。国内の繁殖(はんしょく)地を調べている長崎大環境(かんきょう)科学部動物生態(せいたい)学研究室の山口典之准教授(やまぐちのりゆきじゅんきょうじゅ)(47)に、その生態(せいたい)や保全活動(ほぜんかつどう)について教えてもらいました。

 カンムリウミスズメは体長約24センチ。頭に黒くて長い冠羽(かんう)があるのが特徴(とくちょう)で、名前の由来にもなっています。

  まるでペンギン

 潜水(せんすい)もし、水中を飛ぶように泳ぎます。水深40~50メートルまで潜(もぐ)ることができ、小魚やプランクトン、海底の二枚貝(にまいがい)などを食べます。体は白と黒の2色で、泳ぐ姿(すがた)から“北半球のペンギン”とも呼(よ)ばれています。 [[image]](690093367236461665)
 日本で産卵(さんらん)などの繁殖行動を行うウミスズメは7種いますが、カンムリウミスズメだけが黒潮(くろしお)や対馬(つしま)海流のある暖流(だんりゅう)海域(かいいき)に生息。日本周辺と朝鮮(ちょうせん)半島沿岸(えんがん)の日本近海のみで暮らしています。

  長崎でも繁殖(はんしょく)!?

 2月下旬から5月上旬が繁殖期です。宮崎県の枇榔(びろう)島は、約5千羽がいる最大の繁殖地。徳島(とくしま)県の櫂投(かいなげ)島は最近、繁殖地として発見されました。
 長崎の周辺海域でも、冬期にカンムリウミスズメが見られます。五島沖(おき)では親子の姿が確認(かくにん)されていて、山口准教授は「五島のどこかに繁殖地があるだろう」と言います。
 他にも佐世保(させぼ)市の九十九島や長崎市の野母崎(のもざき)沖でも見られています。野母崎沖の目撃情報は12~5月で、繁殖期とちょうど重なっていることから、この海域にも繁殖地があるのではないかとみられています。

  誕生(たんじょう)直後ダイブ

 オスとメスのペアは岩などの隙間(すきま)に巣を作り、卵を最多で2個(こ)産みます。2、3週間ほど交代で温め、卵をかえします。
 面白いのは、その子育て事情(じじょう)です。卵から生まれたひなは、カラスやハヤブサといった天敵(てんてき)がいない真夜中に、親鳥と一緒(いっしょ)に巣穴(すあな)を出て海を目指します。断崖絶壁(だんがいぜっぺき)を転げ落ち、親鳥が待つ海へとダイブ。無事に親元へたどり着くと、すぐに沖へ出て行くそうです。
 ただ、その後いつ親元を離(はな)れるのかは分かっていません。洋上で子育てをしているので、詳(くわ)しい生態は謎(なぞ)のままなのです。

  命を脅(おびや)かす要因(よういん)

 生息数は1万羽を切るとされ、その数は多くはありません。絶滅(ぜつめつ)も心配されています。
 カンムリウミスズメは多くが無人島で繁殖します。でも、その島に釣(つ)りなどのレジャーで上陸した人がごみを放置し、それに誘(さそ)われたカラスや、船と一緒に渡(わた)ってきたネズミに襲(おそ)われてしまうのです。そうした繁殖を阻害(そがい)、命を脅(おびや)かす要因(よういん)によって、福岡(ふくおか)県のある島では何度も絶滅しかけているそうです。