佐世保市の俵ケ浦半島で市が「九十九島観光公園」の整備を進めている。元々は障害者支援施設があった県有地。跡地活用が長年実現せず、地元の要望を受けて市が観光公園にかじを切った。九十九島動植物園(森きらら)の移設も検討されているが、新型コロナウイルスの影響で公園の「完成形」は見通せない。公園整備の背景と「観光の拠点」として根付くための課題を探った。
■滞在・交流拠点に
8月中旬。青々とした芝生の丘の上にはパノラマの風景が広がっていた。遊覧船が島の間を進む九十九島の海、大島造船所の赤と白のクレーン。「今まで市内にはなかった風景と開放感が魅力です」。市公園緑地課の担当者が力を込めた。
俵ケ浦半島は西側が九十九島、東側が佐世保港に面する地域で市中心部から車で約20分。観光公園は半島の中心に位置する。市は約13ヘクタールの敷地に芝生広場や眺望スペース、駐車場、仮設トイレを整備する計画。事業費は約12億円(うち約半額を県が補助)。本年度中の供用開始を目指す。
同公園には以前、県障害者支援施設旧つくも苑があった。施設の老朽化と、利用者の市街地への移転を望む声を受け、県は2009年、移転建て替えを表明。施設は大潟町に移った。12年、県、市、地元は跡地に県営工業団地を建設することで合意したが、汚水処理を巡り地元の関係団体との調整が難航。計画は暗礁に乗り上げた。
16年、市と振興計画づくりに取り組んでいた地元側は「自然景観を守り生かした滞在と交流ができる施設」を要望。跡地利用の構想は工業団地から公園へと軌道修正された。
■一石二鳥の提案
同半島は、漁業で生計を立てる人が多かったが不漁などの影響で後継者が不足。市街地で職に就く人が増えた。つくも苑移転後は人の往来が減り、半島内の小中学校3校も全て廃校。半島内の人口は10年前の約1400人から975人(8月1日時点)まで落ち込んでいる。
一方で展海峰、白浜海水浴場など観光スポットは豊富。自然や文化を生かしたトレイルコースも整備されている。俵ケ浦半島開発協議会の元会長で、まちづくり組織「チーム俵」代表理事の尾崎嘉弘さん(76)は「工業団地ではなく、人に来てもらい、良さを見てもらった方がいい」と話す。
公園案は市にとっても「一石二鳥」だった。
市は近年、クルーズ船誘致を強化しており、浦頭地区では国際クルーズ拠点を整備。半島内の公園を、増加が見込まれるクルーズ船観光客の受け皿にしようともくろみ、大型レストラン(450席)や観光農園も併設する計画に着手。18年度に造成工事を始めた。
だがその後、中国人の「爆買い」が収束するなどクルーズ客の志向が変化。これに伴い、市は、大型レストランの規模縮小や、公園管理棟への地元産品の売店や「和の体験」ができるスペースの設置など計画修正を迫られた。
公園案には“弱点”もあった。「キラーコンテンツの不足」「天候に左右される」「インパクトがない」などだ。これらを解消するため市が打ち出したのが、施設の老朽化が課題となっていた森きららを観光公園に移設する計画だった。移設後は、今より展示エリアは小さくなるが、全天候型施設を設ける方針だ。
■「詰め込み過ぎ」
二転三転した末に固まったかに見えた計画は、コロナ禍で停滞。管理棟の建設・運営を担う指定管理者の公募の見通しは立たず、森きらら移設の可否判断も当面見送る。「先は見えないが状況を黙って見ていることはできない。何とか形として示せるようにしたい」と市の担当者。
これについて、ある市議は「どんな公園をつくるのか、明確なビジョンがないまま跡地活用やクルーズ船誘致、森きららの老朽化などの課題を一つの事業に詰め込んできた結果ではないか」と批判する。
半島活性化に向け、ハーブの特産品化などに取り組む「チーム俵」のメンバー、山口昭正さん(41)は「場所(公園)だけあっても地元は潤わない。ここでしか味わえないものや体験を磨かなければ人は来ない」と話す。
今後も曲折が予想される公園整備。地域資源の価値を見直し、多様な住民が地元の未来に思いをはせられるか。俵ケ浦半島の新たな「舞台」づくりはこれから正念場を迎える。