長崎県ゆかりの作品を複数残した作家遠藤周作(1923~96年)の業績を伝える長崎市遠藤周作文学館(東出津町)が、20周年を迎えた。没後24年を経た今も「遠藤先生に会える場所」として、国内外からファンが訪れる同館。1日開幕した記念企画展では、同館で発見された未発表小説「影に対して」の原稿が初公開され、改めて遠藤文学に注目が集まりそうだ。
キリスト教弾圧下におけるポルトガル人宣教師や隠れキリシタンの信仰心を巡る葛藤を描いた代表作「沈黙」の舞台とされる外海地区に同館は立つ。2000年5月に開館。文学館構想は遠藤の没後すぐに持ち上がり、遠藤が暮らした東京都町田市など全国7カ所が候補に挙がったが、外海地区を視察した遠藤の妻順子さんの意向で建設地に決まった。設計は葉山御用邸や遠藤家の軽井沢別荘などを手掛けた故平島二郎氏。キリスト教が伝来した西方の海に向かって横に広がる形状となっている。
◆映画「沈黙」追い風
所蔵資料は、「沈黙」の草稿をはじめ原稿760点、書簡5700点など合わせて約3万1千点。開館初年度約6万人だった入場者数は減少傾向だったが、近年は年間約2万人で推移。笹野勝敏館長(60)は「マーティン・スコセッシ監督の17年公開映画『沈黙-サイレンス-』が追い風となり、遠藤作品の認知度が再び高まった」と話す。
18年6月に生誕95年の節目として常設展をリニューアル。遠藤の人生を六つの転換期に分け、遠藤文学の醸成過程をパネルや写真、年表などで総合的に紹介している。遠藤文学に触れたことがない人も、作品が書かれた背景などを理解しやすくなった。旧喫茶室「アンシャンテ」は海を望む思索空間に改装した。
グレゴリオ聖歌が厳かに流れる館内。展示物に見入っていた女性(30)は「来館して初めて遠藤先生の生涯や人物像を知ることができた。帰ったら作品を読み返したい」と語った。ファンのさまざまな思いがつづられた入館者ノートは1日現在で41冊目。川崎友理子学芸員(27)は「書き込みを読むたびに仕事への誇りと責任を感じる」と話す。
◆21世紀に語り掛け
遠藤と親交が深かった元三田文学編集長の加藤宗哉さん(74)=東京都=は「家族や人生という普遍的なテーマがある遠藤文学は、21世紀に向けて語り掛けているように感じる。遠藤文学の魅力の発信拠点として期待している」とエールを送る。市文化振興課の高木規久子課長は「来年は没後25周年、3年後の2023年は生誕100年を迎える。こうした節目で遠藤文学を広くアピールしたい」と話す。